41歳の私は未だふらふらとしている。
落ち着きがなく、瞬間湯沸かし器の気味もある。
だからこの日記を彷徨亭日乗と呼び、東村山の
住まいを癇癪館と名付ける。
こういった人間である。

No.181〜 バックナンバー 最新

■十一月某日

No.161

 目覚ましをかけずに起きると正午だった。十時間以上寝たことになる。文学座のパンフレットの原稿を書く。
解離、多重人格、パゾリーニについてなどを考える。
夜、『ハイ・シェラ』を見、アイダ・ルピノの可愛らしさに神経をやられる。
■十一月某日

No.162

 早稲田大学でビデオのダビング。借りたフォアマン、ウースター、ジェスランなどの舞台のビデオである。
紀伊国屋でガジラの『或る憂鬱』を見る。さほど憂鬱にはならなかった。色々言いたいことはあるが書かない。南果歩さんの舞台を初めて見れてよかった。
■十一月某日

No.163

 『笑っていいとも』のタモリがケガで休んでいる。いい休養ではなかろうか。ゴルフボールが当たってケガ程度なら見舞いに行くほうも気楽だろう。この程度の入院ならいいんじゃないの。まあ、どうでもいいけど。
引き続き早稲田でダビング。
ロッセリーニの『ドイツ零年』を見るが、敗戦後すぐのベルリンを舞台にしていながらドイツ人の登場人物がイタリア語を話しているのが、やはりどうしても気に掛かる。イタリア語のリズムと瓦解したベルリンの光景が解離してしまっている。ドイツ語で見たい。ペキンパーの『戦争のはらわた』でもドイツ将校演じるジェームス・コバーンをはじめ、全員が当然の如く英語を話していたが、ドイツ語で見たいものだ。ワーナービデオから出ているパゾリーニのビデオはすべて英語だが、違和感があって仕方ない。これは是非イタリア語で見たい。
■十一月某日

No.164

 早稲田で講義。フォアマンのことなど。
帰宅してパゾリーニのドキュメンタリー『愛の集会』を見る。
■十一月某日

No.165

 早稲田で講演会。講義ではなく講演会。朝から雨。体だるくやる気を絞って一時間の講演を終える。
早稲田松竹で『アメリカン・サイコ』を見るが、つまらなくて屁も出ない。帰りの電車で読み終えた小説もつまらない。何も面白くない。
『アリーマイラブ』を見る。
■十一月某日

No.166

 冬ね。三軒茶屋のキャロットタワーで劇作家協会が主催する戯曲教室の特別講師として二時間講義。今日はすこぶる調子よく二時間休憩も入れずに講義を続ける。ナンパしてくれる人もおらず、静かに控室に戻る。十二月世田谷トラムで行われるリーディングの戯曲『地下室』の翻訳をもらう。
三茶のドトールでラテとモンブラン。
新宿をぶらつき、本屋、シガーショップ、tsutaya、ミュージックショップなどを覗き、ラーメンを食べ、昭和館などを覗き、飲み屋、バーを徘徊し、『風花』にたどり着き、朝まで飲む。
■十一月某日

No.167

 晴れ。癇癪館近くの秋祭りに赴き、国分寺ラドン温泉。薬湯で血行良くなり、ぐっすり眠る。
■十一月某日

No.168

 フランスの若き劇作家エマニュエル・ダルレ作『地下室』をチェックする。面白い戯曲である。リーディングの際には作家も来日するので楽しみだ。色々と講義用のビデオをチェック。京都公演のパンフ用の原稿等を書く。
夜、疲れた頭を休めようとスコッチを飲む。少し飲み過ぎる。ニーナ・シモンを聞く。
■十一月某日

No.169

 京都へ。八瀬の竃風呂に直行。オヤジの団体にぶち当たる。オヤジたち、しきりに竃風呂をサウナと同じだと主張する。
ホテルにチェックインして四条へ。『松葉』へ。竃風呂のせいで喉が渇いて仕方がなく、いきなり生ビールを飲み干す。鰊の棒煮で冷酒松葉を飲む。この松葉特製の酒が美味い。その後あなご蕎麦を食べる。
祇園の小路を散策する。『かつ源』でかつ弁当を買って帰る。
ホテルに着くと京都のエージェント達から電話が入り、飲みに出る。
北部同盟がカンダハル占拠の報。
■十一月某日

No.170

 夜中にかつ弁を食べたので胃が重い。大原へ。寂光院、三千院、宝泉院、実光院。宝泉院の抹茶係りの人から「旦那はん、傷心旅行ですか?」と声を掛けられる、というのは嘘。紅葉の時期のせいでわいわい人ばかりで、どの寺もショーバイ、ショーバイ、まことに活気があってよろしいおます。
それにしても京都では小さな子供らも京都弁をしゃべるのでびっくりだ。
四条に行き、先斗町、木屋町界隈を散策し、『大黒』でたぬき蕎麦食う。
夕刻、京都造形芸術大学で会議。二月の『ニッポン・ウォーズ』のことなど。
京都駅から新幹線。『松葉』で買って置いた冷酒でうな押し寿司を食う。
三島についてまた思うところがあるので猪瀬直樹の『ペルソナ』を再チェック。太宰を書いた『ピカレスク』といい、この人の書く評伝ものは本当に面白い。テレビで見ると服のセンス、恐ろしく悪いけど。それになんでああいつも、尿道に石が詰まっているような顔してしゃべるのかね。
新幹線の三時間はまったく退屈。嫌になる。東京駅から癇癪館までの行程がまた長くて嫌になる。
■十一月某日

No.171

 胸焼け。
タモリ、『いいとも』に復帰。気の毒なほど緊張している。ビートたけしなら緊張を被り物でごまかすところだろう。実は私は四カ国語麻雀の頃からタモリが好きなのだ。いい加減さ、肩の力の抜き加減がいい。テレビなんか懸命にやるな。
早稲田の講義。駅で新キャベ液体買い、飲む。
講義はロバート・ウィルソンとハイナー・ミュラー。
研究室でリーディング『地下室』のキャスティングが正式に決定したとの電話を受ける。
小沢寿美恵さん(『昴』所属)、新井純さん、どうです、いいキャスティングでしょう!第三エロチカからは笠木、登山、友田、どうです、いいホストでしょう!スーパーホストクラブ地獄のエロチカ一丁目!
前から思っているのだが笠木って沢田亜矢子の前の亭主の松野さんに似てない?
十二月一日、世田谷トラムシアター、十二月十四日京都スタジオ21でやります!
小沼さんからゴダール『映画史』のサントラCDを借りる。フランスで出ているもの。♪ありがたや〜、ありがたや〜。
CD友達から借りたりして高校生みたいね。
高田馬場芳林堂ビル二階の喫茶店『ジャンナン』が閉店と知りショックを受ける。二十年来の付き合いであった。消え行く都内の喫茶店。NHKの『にんげんドキュメント』のテーマ曲が聞こえてくる。
ところで最近身近に壊れていく人が多い。危ないのは三十代の半ば。人間は本当に脆い生き物だ。殊に女性より男性、プライドが高く、知らないことを人前で知らないと言えないタイプの人に壊れる率が高い。
■十一月某日

No.172

 テレビでニューヨークのクリスマスツリーの光景。一度は断念したものの、未練が残る。行きたい。
快晴。気分良ろし。
雨だとだるく、晴れだと調子がいいと、単純な人間ではある。
電話で色々リーディングの打ち合わせ。
森下スタジオのオンケンセンの『スピリッツプレイ』に。
ケンセンに久しぶりに会う。彼はシンガポールの若きスター演出家である。 
ドイツの友人マティアス・リリエンタールも来ていた!
夜、『アリーマイラブ』を見る。このドラマを見ていて困るのは誰に感情移入していいかわからないからなのだ。立場、キャラクター的に私にいっとう近いのはフィッシュなのだが。
■十一月某日

No.173

 ウエルズの『上海から来た女』を見る。
ドイツ文化センターでマティアス・リリエンタールと会う。一時間ほど過ごし、渋谷に出て狂牛病の風評にもめげず『つばめグリル』でハンブルグステーキを食べる。
コクーンで韓国ミュージカル『私鉄一号線』を見る。期待度が高かったのはソウルで見た人の評判がいいからだ。唐さんさえも面白かったと言っていた。ところが開演してからすぐに私は頭を傾げた。日本公演用に改変したのだろうか、ちっとも面白くないのだ。どういうことなのだろう。日本公演用にソフィスティケートした部分があるのだとしたらそれは明らかに失敗だろう。もっとごりごりした生の感触を期待していたのだが。
しかしながら昨日のオンケンセンに続いての芝居二日連続観劇は疲れる。その上マチネで『雲母坂』も見ようとしていたのだが、さすがに無理だった。この松田正隆の新作は活字で読むとしよう。新境地を開拓しようとしている松田が今度は成功しているかどうか。『天草記』は明らかに失敗作だが、ああした積極的な失敗というものはいいものだ。
■十一月某日

No.174

 劇団の会合。京都等のスケジュールと来年の展開について語る。その後劇団員全員で花園神社のお酉様。毎年恒例の劇団行事。劇団は忘年会も新年会もやらない。一年を通して唯一の行事が酉の市で熊手を買うこと。これぐらいの付き合いのほうが新鮮さを保てていいのだ。それにしても夏の公演から三カ月ほど経って、終了直後は顔も見たくないと思っていた劇団員だが、こうして苛立ちや怒りが治まって会うと実に可愛く思えるものだ。
いつもの店で買った新しい熊手はおかめの面付き。気候は暖かく絶好の酉の市日和りである。毎年の通りに一本百円の肉のササミの揚げ物を二本食べる。いつもの場所でいつものオヤジが無愛想にササミを揚げているのを見て心和む。これを食べないと一年が終わらない。それにしても一年が経つのは早い。
他の屋台の地鶏の腿肉が美味そうなのでついでにそれも食べる。一本五百円。
熊手を劇団事務所に置き、西新宿でレバノン料理を食べる。オーストラリアはアデレードで連れて行ってもらったレバノン料理レストランの幸福な記憶があったからだ。ここのレバニー・レストランも掘り出し物だ。レバニーワインもなかなか美味いフルボディだ。
なんか肉ばっか食ってるな。
■十一月某日

No.175

 ドイツ文化センターで開かれた国際演劇祭主催のドイツ現代演劇のセミナーに出席する。岩渕達治先生のお元気そうな顔を久しぶりに見る。
夜、信濃町、文学座の稽古場、通称モリヤに向かい、『牛蛙』の稽古を見る。旅館を改装したというこの稽古場のシブさといったら。木製の階段などいかにもといった風情だ。
稽古後、モリヤでそのまま鍋を囲む。いつの間にかスタッフ、俳優諸氏とわいわいしゃべっている。酔っ払う。
どうやって帰ったのか定かではないのだが、とにかく気が付くと癇癪館のテーブルでワインを飲み、シチューを食べている。
■十一月某日

No.176

 図書館とか行ってるうちになんとはなしに日が暮れる。
ワイルダーの『深夜の告白』を見る。
■十一月某日

No.177

 新宿で『ピストルオペラ』を見るために金券ショップで1470円でチケットを購入したものの、映画館に着いて今日が水曜で入場料金千円デーだと知り、ショックを受ける。思わず従業員に差額返金しろと言いそうだった。えらく損した気分だ。
映画はOKね。とにかくフューチャーフィルムでここまで好き勝手やれてる映画人って世界広しといえども鈴木清順ぐらいなものではないか。華麗なるトーテム・タンツね!もっとも『ツィゴイネル・ワイゼン』以後すべて死の舞踏だけど。平幹二郎がいい!平と江守徹と唐十郎を共演させたい、三人とも顔がでかいぞお!だからスクリーンからははみ出てしまうから、是非舞台でね。俺、作・演出するから誰かプロデュースしろい!
その後、さすらいの遊び人に付き合ってもらってヨドバシカメラに向かい、パソコン購入の秘訣を伝授される。ヴァイオ購入。そのままさすらいの遊び人とビールを飲む。
■十一月某日

No.178

 早稲田で講義。カレン・フィンレー、アーニー・スプリンクルのことなど。
早稲田通りで葉巻買って帰る。
葉巻をやりながらゴタール『映画史』の四巻目を見る。
■十一月某日

No.179

 小林秀雄全集をつらつら眺める。正宗白鳥との対談がえらく面白い。正宗白鳥の言葉。「人に読まれることは期待もしなかったし、人が読みたいといえば、読んでくれるなと止めるようなものだ。(笑い声)それで七十年生きてきたっていうのは、不思議なことだが、どういうわけだろうな。七十年、書いて、ほそぼそと生きてたというのは…。才能があると思いやしないし…。」
もう大爆笑。ずっとこういった調子で白鳥はいかに自分の小説がつまらなくて売れないかを語り、次第に小林秀雄も酔っ払ってきて次ぎのようにして唐突に終わる。
「小林 もう酔っ払って来たからだめですよ―正宗さんの奥さんはいい奥さんだなあ。
正宗 なに言ってるか。つまらない。(笑い声)」
そういうわけで正宗白鳥の文庫本を久しぶりに書棚から取り出して読むが、本当につまらない。嫌になるほどつまらない。このつまらなさがいい。当分正宗白鳥と付き合ってみよう。大体白鳥なんていうペンネーム自体とぼけている。川村孔雀に改名してみようか。
夕刻、文学座のアトリエに。モリヤからアトリエに移っての稽古。装置も三分の二ほど仕上がっている舞台での稽古を本番まで十日間出来るという環境は素晴らしい。
帰り、再びスタッフ、俳優諸氏と飲み、酔っ払って帰る。
色々原稿があるのだが、いっこうに始める気がしない。 
■十一月某日

No.180

 松本俊夫の『薔薇の葬列』を見る。
VAIOが配達されてくる。早速起動させていじくりまくる。
夕刻、京都版『ニッポン・ウォーズ』キャスティングのためオーディション。
帰って来てすぐにVAIOにかぶりつく。そのまま深夜まで首ったけ。

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