*9日プレビュー、10日初日の舞台をご覧いただいた初日レポーターのみなさま
からよせられた、ご感想を2回に分けてご紹介いたします

10日初日のご感想
鈴木麻里さん 21歳・女性
昼間からパソコンに向かっていて、気付いたら闇に包まれているときのように、盗むように芝居がはじまりました。はじまりが判然としないのは、夢に似ています。

時間の感覚がぼんやりとしていて、昼を演じていても夜を演じていても、根底には絶えず闇を感じました。象徴的なのは、昼に暗い部屋で8ミリを映写するシーンで、ここでは世間から切り取られた空間に、固有の時間が流れています。何時何分であろうと、そこは闇だからです。

話が進むにつれて、この終わらない夜は、夢ではなく現実なのだと思えてきました。闇を夜だと捉えるのは単なる慣習であって、闇に包まれた時間を昼間として生きる人々がいるのだと目の当たりにするからです。

コンビニ、吉牛、漫喫、カラオケと、24時間営業のサービスが思い浮かぶのですが、これらは闇とたたかう発想のもとに成り立っていると感じます。人は根源的に闇をおそれます。

闇をおそれて眠らないとき、夜明けに安堵を与えられて、やっと眠ることができます。しかし、次に目覚めるとき、そこには闇が待っています。世間にとっての夜が、当人にとっての朝だからです。

この話の登場人物は、人一倍に闇をおそれているけれど、自らそれをまとっているために、逃げることができないのだと思いました。昼暗く、夜明るいどころか、全てが闇なのです。しかもそれが、夢でも幻想でも白痴でもなく、覚めた意識にまとわりついて離れないのです。私がおそろしいと感じたのはそこでした。

k.kさん 33歳・女性
立場は違えど同じ事件を共有する二人が、思いがけず味わうシンパシー。

人付き合いを拒絶してきた彼らがようやくめぐりあった、自分の抱えるものを見せ合える相手。

急激に仲良くなった分、同じくらい急激に、相手の正体を知ったときのとまどいや憎しみが悲しいと思いました。

うまく処理できなかった過去をもつ者同志だったからなんでしょうね。

最後のシーンが印象的でした。

こだわり続けたものがいとも簡単に離れてゆく。結局この二人は過去の事実に縛られていたのではなく、過去の己に縛られていた事がはっきりわかったシーンで、人間心理の複雑さと事実の単純さとの矛盾が明快に表現されていたと思いました。

今回の観劇は、客観的に自分の心理を見つめることができる人はそうそういないという事を再認識できて有意義な機会となりました。

匿名希望さん 33歳・女性
ここまで小さい劇場でお芝居をみるのが初めてだったので、とても新鮮でした。

役者さんの息遣いが間近で感じられ、こういうホールもいいものだなと感じました。

2時間休みなく演じ続けるというのはすごいなと思います。しかも少人数なのでほとんど出突っ張り……。見習わなくてはと思いました。

……肝心の内容は、加害者にも被害者にもなった事ないうえ、巷で良く言われている人間の弱い部分というのを持ち合わせていないので、どちらの立場にも感情移入することが出来ないのだけど、観てよかったなと思わせる舞台でした。

平山 葉子さん 25歳・女性
一瞬の動作で、夜明け方の静けさを感じさせる。夜が入ってくる。と言うセリフには、心の闇が反映されているのではないかと、奥深さを思わせる。

フクロウの、独特の動きが、静と動で存在していることが、フクロウを元の位置に戻す時に、江守さんが足元を抑える動作をする事であらわになる。

暗闇を演じるにあたって、何通りものキャラが一人の中にあり、苦しさの絶頂を演出する迫力は、さすがです。

人のあまり触れられない部分、弱さが悲壮感とともに、込み上げる、作品。なのに、重さを感じさせずに、仕上げるのは、演技の難易度がどれだけ高いかを、感じさせて下さる。

セリフ一つで壮大な創造が出来上がり、さらに、「白のフクロウ。」の美しさが、ダークな世界の背景によって、さらに際立ち、最後の賭けの所は印象深いです。

藤田一樹さん 14歳・男性  
ある事件の被害者と加害者という立場から見える人間の心の闇や痛みなどを、ドライにクールに描き、演出されている作品でした。シリアスでスリリングな少し重めの作品で、帰りの足取りが軽かったわけではありません。ですが適度でささやかな笑いを含んでいましたし、シアタートラムという密度の高い空間で体験できる、見応えのあるお芝居だと思いました。

暗転が多く、音楽は極力排除され、淡々と舞台は進行していきます。暗転が多かったのが少し気になりましたが、その乾いた淡々とした雰囲気には、恐怖感をいだきました。ですから、インパクトの強い派手なシーンが際立っていて印象的です。

舞台美術や衣装はモノトーンでカッコよかったです。特に舞台美術は劇場の壁をそのまま露出していたり、シアタートラムという空間を上手に使っていると思います。

まだお芝居の余韻を感じつつ、いろいろと考えているところなのですが……。残念ながら僕の胸にズシッと響いたり、あんまりピンとこなかったのが正直なところです。でも個人的には川村さんの作品を拝見するのは初めてで、世界観に触れられただけでも非常に価値のある観劇体験でした。

Anttyさん 48歳・女性
もっと暗い気持ちが残るかと思って伺ったのですが、昨今の世の中に対して、自分でも感じていた事柄が、川村さんの作品となり、その問題提起を「希望」としてキャスト・スタッフの方々、観劇にいらっしゃった方々と共有した、という感覚になりました。

殆どが「夏」を舞台とした場面であるはずなのにじっとりと汗ばんだ夏の香り ではなく開いた窓から夜が歩み入ってくるような底冷えを客席で感じていました。

花火の光が一瞬夏を呼び込んだかと思えたのもつかの間、短い光が消えた後は元の闇が待っているだけなのは、登場人物達の人生と重なってくることなのかもしれません。

江守さんは、息子を失った過去や孤独だけでなく、殺人者の心が書かれた哲学書に関ったという所まで「あるかも」と納得させるようなさすがの存在感でした。

手塚さんはひたすら捉えどころのない恐ろしさがあり、高橋さんの上手さが戯曲にリアリティを感じさせます。

鳥屋と夫が少しづつ心を開いてゆく場面は、相手への警戒心や自分の殻を決して捨て去ってはいないのに、どこかに共通の記憶がある2人が、ビールのホロ酔いもあいまって近づいてゆくという状況が、ごく自然に運ばれていて、お2人に感動しました。

餌屋の飯尾さんは、1つ1つを取り上げれば、実はアブナイ人かも。という所を全く普通の人の雰囲気で押し通すことで、逆に「考えてみれば自分の周りでも」とヒヤリとする後味が残りました。

日常生活において、隣人・大家・店子・店主・業者など、人は各々の「役割」を演じ、また、多くの「役割を演じる人」が自分の生活に関っている。そんな人と人の関係が現代では「普通」のつきあいになっています。それは、親子という肉親の間においてですら同様でしょう。

記号として存在していた人が一個の人間として見えてきた時こそ、楽しみや喜びが生まれてくるのだと思うのですが、今回の登場人物達にとっては、その内面への踏み込みがかさぶたを剥がすような痛みへと繋がってゆく展開になっています。

川村さんの挨拶文にもあったように、「否応なしに抱えることになった精神の複雑化」「それに反比例するかのような思考回路の単純化」にとりたてて気づくこともなく、毎日を送る現代人の固まった心を、何かが揺り動かす事ができるのだろうか、という問いかけをされている気がしました。

mmmさん 38歳・男性
これほど時代に正面から向き合おうとする作品は最近珍しい。

答えが見つかる光など見えなくとも、描こうとする姿勢に価値を感じる。

登場人物は、加害者も被害者も、いつ立場が入れ替わってもおかしくないことを劇中でそのまま見せ付ける。

江守氏の細かな演技がかわいらしい。

前作は序章、今作は続き、最後の三作目でどのように完結させるのか、興味は持続された。

9日プレビューのご感想

「フクロウの賭け」公演情報

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