彷徨とは精神の自由を表す。

だが、そんなものが可能かどうかはわからない。

ただの散歩であってもかまわない。

目的のない散歩。

癇癪館は遊静舘に改名する。

癇癪は無駄である。

やめた。静かに遊ぶ。

そういった男である。

バックナンバー一覧 最新
■十一月某日 No.1131
稽古。

とうの昔に締め切りを過ぎている大きな仕事をすっかり忘れていて、慌ててとりかかる羽目に陥る。

原稿料はもうもらってしまっているものなのだ。返しちゃおうかとも思ったが、やることにする。

そういうわけで稽古後、執筆。

■十一月某日 No.1132
快晴が続いて体調すこぶる好調。

稽古も快調。

しかし気をつけなければならないのは稽古が快調イコール舞台の成果とならないところで、ここいらが本当に現場の魔というやつだ。

同様に俳優達が気分のいい稽古がイコールいい舞台とならないことで、俳優が「見に来ないでくれ」という舞台が本体もその俳優自身もよかったりすることがある。

HP用の文章とか役者に書かせたりしても、もう自分が大好きばかりみたいなこと書いていてまったく駄目。

写真を撮らせても、やたらくだらないスナップ写真ばかり撮ったりする。

今回は吉村の写真構成ひどく、ほとんどボツ。その理由本人は理解できないらしい。さすが女宮島、鈍感で弛緩している。

もっとも宮島はよく働く。坂本といい第三エロチカの女達というのはほんと働かない。仕込みとかいうとはなから自分らは来なくていいと思っている。自分を女優さんと勘違いしているのだろうか。もっともこうした勘違いでもなければZORAなんて恥知らずなことできないか。

執筆。

■十一月某日 No.1133
稽古。さすがに全体に疲れが見える。

私自身執筆を放棄して映画を見てしまう。

『コラテラル』おもしろい。が、この監督はどうも「人間を描く」といったことに生真面目過ぎてノリに欠ける感がある。

トム・クルーズはほんとこういう知的障害の役が似合う。

■十一月某日 No.1134
稽古後、京都へ。

新幹線のなかで東スポのデイヴ・スペクターのさげまんのジョークにツボがはまり、しばしひとりで笑いが止まらない。軽蔑されてもかまわない、スペクターのジョークとなぎら健壱の小噺が好きなんです。

なんにも関係ないが、みのもんたが最近酒量が減っているそうだ。

■十一月某日 No.1135
午前中授業で午後は五時半まで『わらの心臓』の稽古。

稽古後、新幹線で帰京。

■十一月某日 No.1136
稽古。

急に会食の誘いがあり、渋谷でフランス人たちと酒を飲む。なんやかんやと日付が越える。

もう英語をしゃべるのが苦痛苦痛。稽古とかやってるといきなり英語モードなんて無理。暇な学者じゃないんだから。

■十一月某日 No.1137
稽古。

仕込み。

■十一月某日 No.1138
照明仕込み。

場当り。

■十一月某日 No.1139
ゲネプロ。

思いのほか、早く終わって時間が空いたので新宿で『山猫』を見る。中学生ころ日曜洋画劇場で前後編二週にわけて見て以来。こいつはやはりイタリア語で見なければ。

本当によくこんな映画撮ったもんだ。このだらだら感はオペラだ。

食卓と舞踏会のシーンは圧巻だ。細かなところもけっこう覚えていた。

例えばラストシーン、バート・ランカスターから少し離れたところででちょろちょろ動いている野良猫とか。

この役をビスコンティは当初マーロン・ブランドと考えていたと読んで、もしそうであったらさらにすごかっただろうと想像する。

このときシシリーの貴族を演じることのなかったマーロン・ブランドはそれから十数年後、シシリー出身のマフィアをやることらなったというわけだ。

■十一月某日 No.1140
アドレナリンが上昇しているのがわかる。

スタジオに着いてすぐに場面の手直し。

四時、ゲネプロ。

七時半公開ゲネプロ。

バリ島で通訳をやっていたノブ君現れ、この世界は今のジャカルタの政情にそっくりで驚いたという。

インドネシアには女性共産党員のペニス狩り部隊というのが実在するそうだ。すごい世界だ。まさしくハムレットクローンだ。やはり私はインドネシアが合っているということか。

ペーター・ゲスナー氏が見に来ていて初めて挨拶する。この人とは会いたかった。

■十一月某日 No.1141
四時、公開ゲネ。

写真家の宮内氏が写真を撮る。氏はブラジルから帰国したばかりでしばしブラジルについて語り合う。

七時半、初日。

大事なく終了。

乾杯。

くたびれた。

■十一月某日 No.1142
ところでゲネに見に来ていた、『見よ、飛行機の高く飛べるを』に出演中の、新庄先生を演じていてなぜか買ったばかりらしい小粋なハーフコートを着て現れた笠木誠は、当たり前のことながら、初めて『ハムレットクローン』を見て、みんなよくやってるなあと感心し、出るのが怖くなったという。

『見よ、飛行機』は立ち見も出るほどの入りだそうで、喜ばしいことだが、やっぱり日本の観客とジャーナリズムは外国人に弱いな。もしこれが新人演出家の手になるものだったら、どういう評価を下すか知れたものじゃなかろうに。

もっと自国の演劇人も大切にしていただきたい。

いろいろと考えること多し。

三茶で12月のリーディングの打ち合わせ。

スタジオのそばの蕎麦屋でカレー南蛮そばを食べ終えて出ようとすると、見に来た佐伯隆幸氏とばったり。この人とは妙なところでよく会う。三茶のさてんでばったり会ったこともあるし、下北沢の駅前の公衆便所で知らないうちに並んでいたこともある。

「川村と最初に会ったのは自由劇場の上のレストランだったとなあ」なんて言うのでこの人だいじょぶかねと思う。自由劇場にはいったことがない。

テレビに渡辺えり子が出ているが、なんか最近美輪明宏に似てきた。

いつも読んでいるわけではないのだが、週刊誌の鴻上のエッセイに目をとめると、新宿西口で「私の志集」を売っている女性について書いている。いつか買おうと思っていたところ、鴻上は買っていてしかも彼女と会話も交わしている。これで少し彼女の謎が解けたが、それにしてもよく買うものだ。さすが田舎者パワーといったところか。芝居の題材にでもしようかと思ったのか。

本番。順調。

■十一月某日 No.1143
ところで先週のニューズウィークの大統領選の総力特集は開票後までは絶対書かないという約束のもとの取材によったということで、迫力だ。読み応えあったなあ。

ところで仙台の方々には悪いが楽天はだめだよ。スタッフ人事がまるでだめだよ。

本番。順調。

■十一月某日 No.1144
マチネの後、アフタートーク。

終わってJOU、あたしゃしゃべりが下手だとへこんでいる。

私はどっと疲れて、人としゃべる気もおきない。

一滴も飲まずに眠る。

■十一月某日 No.1145
元気になる。

みんなテレビで今年のヌーヴォーはとかやってるけど、ほんとにわかってんのかね。ちなみにぼくは知らない。ただの感覚。

マチネのあと、1999年の『ハムレットクローン』ワークインプログレスのVTR上映会。

見出すとおもしろくて見入ってしまった。役者はみな壊滅的に下手だが、いわば今の『クローン』の具象絵画といったところか、この後、徹底して舞台はアブストラクトへ向かっていったのだとわかる。しかしこの具象はおもしろい。合間のビデオに自分で抱腹絶倒、私自身が出ているのだが、髪の毛がまだ黒々としている。白髪は21世紀より始まったのだな。

もりもり映画を撮る気になる。

『モンスター』を見る。

たいした映画ではないが、シャーリーズ・セロンの演技が演出の凡庸さを救っている。すばらしい。

どこかで見たと思っていたのが、エンドロールで確かめると、やっぱりセロンを助けようとする老人はブルース・ダーンで孫がいるから殺さないでくれと哀願する被害者はスコット・ウィルソンだった。スコット・ウィルソンといえば若かりし頃は病的で冷酷な殺人者が得意の男優だった。彼が今理不尽に殺されてしまう老人を演じている。心動かされた。

ブルース・ダーンもひさしぶりに見たな。

■十一月某日 No.1146
ブラジルバージョン、笠木誠出演。

前日のリハでは明らかに新庄先生が残った泥棒で、それはそれでおもしろかったのだが、今日の本番は昨日よりその新庄先生が消え、無難にこなす。なぜか泥棒にどこか卑屈さが加わっていい。

今日はたまたまその笠木の34歳の誕生日だということで俳優たちが本人に内緒で準備しているらしいのだが、なかなか始めないので、どうしたというと本人がお客さんと会っているということでまだ来ないとかいってるから、ばーか、本人は知らないのだからいつまて経ってもきやしないぞ、と怒る。スタジオ内にお客さんも待たしてあるんだから。催しものやるのはいいけど、なんかいつもどこかで間が抜けてんだよな。

私はシャンパンとヌーボーを用意しておいた。

■十一月某日 No.1147
マチネのあと、いろいろお客さんが来て大忙し。

手伝いの日芸の学生からインタビューを受ける。「演劇とエロ」についてだと。なんかなあ。

やっと『クリオネ』のキャスティング、国仲役が決まる。ここではあえて書かない。驚きのキャスティングだ。稽古が待ち遠しい。

■十一月某日 No.1148
千秋楽。

帰ろうと思っていたのが打ち上げで明け方まで飲んでしまう。

村島は前日、明日で終りだと電車で泣いていたという。いいグループであった。しかし、これぐらいの期間で、概ねいい関係のうちに終えるのが一番なのだ。劇団なんて不健康の極み。

■十一月某日 No.1149
二日酔いで京都入り。

すぐ眠る。

■十一月某日 No.1150
こちらはこちらで『わらの心臓』の稽古が佳境だ。学生たち、私がいないあいだによく自主稽古をしていた。

夜、王将で打ち合わせ。

昨日寝すぎたせいかよく眠れず。

■十一月某日 No.1151
午前中から授業だが、眠くて仕方がない。

ここ一年生のクラスでも『わらの心臓』をテキストにしているのだが、学生に聞くとサリン事件のときは7、8歳だといい、両親の年を尋ねると、父は43、母は41というので大ショックである。

44歳など名実ともに、おとっつあんだ。

■十一月某日 No.1152
稽古後、卒業制作の舞台リチャード・フォアマンを原作にした荒木チームの『僕の頭は大ハンマーだった』を見る。見た後、アフタートークに参加し、フォアマンのことなどしゃべる。

舞台はいろいろ不満もあるが、フォアマンと取り組んだ勇気と慧眼に拍手を送る。やはり学生には甘くなる。

トーク後、新幹線で帰京。

新宿で名古屋から来た「幻の手羽先山ちゃん」で手羽先らをばりばり食べる。

■十一月某日 No.1153
終日引きこもり、『クリオネ』の第三稿を仕上げる。

終えたのは深夜。

■十一月某日 No.1154
ひと仕事終えた充実感のもと、吉田喜重の『嵐が丘』を見る。おもしろい。

次に『ろくでなし』を見る。二度目で最初は文芸座で見たのだが、そのときと感想は同じでおもしろくない。見るべきところはラストシーンか。

■十一月某日 No.1155
『オールド・ボーイ』を見る。

こてこてのストーリーをこってりとした演出で見せる。

後半は引きずり込まれたが、前半は退屈だ。確かにタランティーノが好きそうな映画だ。

主演の男優、役所広司とルー大柴氏をひっつけたようなこの人いい。

ターザン山本が客席にいるのを発見する。

おっすと声かける。嘘。

この後、ひさしぶりに風花をひっかける。大酔いし、気がつくと遊歩道で寝ている。口のなかは血だらけって嘘に決まっているだろがっ。

■十二月某日 No.1156
あっという間に今年ももう師走か。

電車のなかでくしゃみしてこっちに唾飛ばすオヤジに殺意を覚える。

土日は大柴さんの代役としてリーディングをやらなければならないのでしばし禁煙しようと決意する。

ヨン様か、大人があのていたらくなんだから、子供のしつけなんざ、この日本じゃもはや無理だろ。

中野の美容院へ行き、平凡でラーメン食べて駅に向かうと抱きついてくる者があるので、出たか山田山子と思って足首にテープで張ってあるナイフを取り出そうとしたのだか、和栗由紀夫氏であった。ひさしぶりだ。氏はブラジル、サンパウロの大学で舞踏のワークショップを終えて帰国したばかりだといい、しばし立ち話をする。

ところで平凡ラーメン、かつての無愛想なババアとジジイから代替わりし、ふたりの青年が黙々と味を守っていて好感が持てる。

そういうわけで『砂と霧の家』を見る。タイトルに惹かれてでまるで前情報なく見たのだが、ようするにアメリカとアラブの戦争映画だった。

見ていてひどく嫌な気分になる悲劇だ。

宿命というものへの距離のとり方というか、測量の仕方が安易だ。

メロに到達していない。まあ、メロをやる気でいたわけでもないだろうが。

煙草を吸ってしまう。稽古と執筆をやってないとたいてい禁煙できるのだが、映画を見た後はやはり吸いたくなる。

■十二月某日 No.1157
ファスビンダーについてちょいと京都でしゃべるので、復習する。

耳鼻科いってサウナいく。

ひさしぶりになんにもない日。

明日はいよいよ『クリオネ』の顔合わせだ。楽しみだ。

■十二月某日 No.1158
『クリオネ』の顔合わせ。写真撮影。第一回の本読み。いよいよ始動だ。

本読み後、世田谷シアタートラムでリーディングのための稽古。場当たり等々。

大柴氏の出演が不可能なので私が国仲役を読む。

そういうわけで年末年始は忙しいので、わたくし今年のレコ大、紅白は辞退いたしました。

■十二月某日 No.1159
リーディング本番前、一度通す。

たったこれだけの稽古段階でお客さんの前で読むというのも役者さんにとって過酷といえば過酷であろうが、そもそもこれは作家としても興行主にとっても楽な企画ではないわけで、みなさん、よくやってくれると感謝。

とにかくこういうものはやるほうがおもしろがらないと成立しない。

リーディング、アフタートーク終了。

エルメスの今年秋のコピー『すべてが変わったが、なにも変わらない』が不意に口に出る。

自分のことである。第三エロチカからティーファクトリーへの移行についてである。

その後、楽屋付近でお客さんも交えてわいわいと飲む。が、私さすがしゃべり疲れたのか、あまりしゃべらない。

吉村が「いじめないでくんろ。もうおらのことあまりいじめないでくんろ」と米俵をしょって現れたのにはびっくりした。

トークのときに客席でぼんやり見えた金髪の男が村島だったと知る。変そうなのがいるな、こいつが質問とかしてきたらヤダなあと密かに思っていたのだ。

次男坊で飲む。ここへ来て酔ってきたのかわさわさしゃべった。

■十二月某日 No.1160
14時からリーディング。

宮本さんが前日、何時に入ればいいのかダメだしはないのかと聞くので、「ダメだしなし。開演に間に合えばいい」というと楽屋入りしたのは十分前なのでびっくり。

本番前袖中で出演者たちはなにを話しているかというと、リーディングの途中で突然手淫を始めようかとか馬鹿なことを言い合ったりしているのだ。

手塚氏と私の驚異のジャムセッション。途中で立つわ動くわ席は変わるわで、手塚氏のリーディングはやはり予断を許さない。見ものでしたぜ。

アフタートーク。

『すべてが変わったが、なにも変わらない』

二日間に渡り、けっこう重要な内容のトークをした。

打ち上げ。わさわさと飲む。酔って帰る。

©2002-2004,Tfactory Inc. All Rights Reserved.