彷徨とは精神の自由を表す。

だが、そんなものが可能かどうかはわからない。

ただの散歩であってもかまわない。

目的のない散歩。

癇癪館は遊静舘に改名する。

癇癪は無駄である。

やめた。静かに遊ぶ。

そういった男である。

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■十月四日 No.1097
早朝の便でフィリピン、マニラへ。

四時間のフライト。

お出迎えを受ける。

アートセンター近くでコーヒーを飲んでいるといきなりの雷雨。

三時間半かかってバスで宿泊施設へ。

山の中。

私は鐘下と同部屋。このなかでVIPルームだというが、どこがどう特別なのかわからないが、とにかくここはかつてのマルコスが建てたもので、私らの部屋はVIP部屋というのだが、シャワーからお湯が出ないんです、と鐘下呆然と言う。

夕食を食べてごろごろ。

みんなの顔を見るのはうれしい。

鐘下君は新作のためにPCの前につきっきりだ。働いてんなあ。

お湯が出るというジョシュ達の大部屋、イメルダ夫人の専用だったという部屋でシャワーを借りる。

と思ったらわが部屋もお湯開通。

とにかくバリのときもそうだったが、暗いなかを着くとどういうところへ連れて来られたのか皆目不明だ。

屋外のテラスでぐたぐだと飲み、一時頃眠る。

■十月五日 No.1098
八時半起床。朝食。

午前中、各々案を書く。

東京での体のだるさ、凝りが解消されている気がする。

午後、話し合い。

夜になると涼しい。

■十月六日 No.1099
どういうところに泊まっているかというと吹き抜けの板張りの廊下があって、その中央に中庭とプールがあり、それを囲むようにして部屋部屋がある。

夜なんぞは風にあたって廊下のソファかなんかに寝転び、ぐだぐだとウイスキーを飲んで最高よ。

昨夜はぐだぐだしつつ一月前に結婚したばかりというナムロンの結婚式の写真を見せてもらう。

さらに松井氏と鐘下氏となぜか大いに盛り上がってしまい、って別になんちゅうことない会話の内容で盛り上がってんだけど、飲みすぎる。

そういうわけでやや二日酔いで朝元気なし。しかもなぜか目覚まし時計が東京時間に戻っていて一時間早く起き、気がつかずに一時間早く行く準備をしてしまい、鐘下に、「なにやってんすか」と指摘されて初めて気がつき、愕然とする。

軽いエクササイズ、要するに遊びをしてからミーティング。

夕方まで議論白熱。煮詰まったところで、アズザンが手を上げて発言、

「月は遠くから見ると美しい。しかし近くで見ると汚い」云々とやってくれる。

ひさしぶりに聞いたアズザン節、やってくれる、やはりこの男は期待を裏切らない。

それにしても劇のことの決定は遅々として進まないのに比べてオフ日の過ごし方のオプション決めになると、みんな殊に日本人は血眼になって主張するのには呆然。自分のことだけれど。

明日、ハレッシュとジョシュが帰るのでパーティをやるというが、くたびれたので早く寝たい。

トノに尺八の別の意味を教えるとおびえた顔つきをする。

野田氏の『赤鬼』に出演していたトゥアとコップになぜタケシ見に来ないと叱られる。

いろいろなタイトル案も出る。

『ケンタローの夢』、『ケンタローと16人の犯罪者たち』、『タツオ』、『タケシ』、『ダーティ・トゥア』、『KING OF SEX』、『EXCITING SEX SHOP』、『アズザン』などなど。

私が提案したのは『子連れ狼』と『奥様は魔女』

パーティをやる。結局飲む。

■十月七日 No.1100
エクササイズなしで議論に集中。

まあ、いろいろあるのだが、いろいろ決まっていく。不思議なものだ。時間の延長の必要なく決まっていったのだ。

夕食後、バスでマニラ入り。

繁華街のマカティ地区のバーに入り、ビール、ウオッカトニックなどを飲む。

一部はゲイバーへ。

■十月八日 No.1101
朝からみんなでバスツアー。

まずは近くのショッピングセンター。フィリピン葉巻の二大銘柄タバカレロ、アルハンブラを買う。

その後、サンチャゴ要塞、ホセ・リサール・シュラインなどを見る。要塞は日本軍がフィリピン人を監禁、虐殺などをした場所である。戦後、600人の遺体が土から発見されたという。

『ハーバービュー』で昼食。オイスター、シュリンプ、トンソクなどを食べる。

のんびりぼんやり海を見つつ。

本屋。午前中と違うショッピングセンター。

親子の物乞い。

ホテルに戻ってラウンジで赤ワインなどをやっているとどっと疲れが出る。

部屋でテレビの映画、ジョン・マルコビッチがトム・リプリーを演じているやつを見ている最中、目の前が少し揺れるので目眩かと思ったら、次に部屋全体が大きく横揺れする。部屋は最上階なのでなす術もなく、ああ、こういう死に様かという思いが一瞬頭をよぎる。

止むと廊下で数名がわーわー騒いでいる。

■十月九日 No.1102
チェックアウトして買い物。

午後2時からCCPすなわち国立劇場でフィリピンの演劇人と交流会。

ホセの案内でトゥアとマカティのマッサージにいき、サウナ三昧、アロマセラピーのスウェーディシュマッサージを受ける。

あの、誓って普通のマッサージですからって誰に向かっていってんだ、おれ。

一時間というのを一時間半ほどやってくれちゃって、慌ててタクシーに乗るが、八時開演のCCPのミュージカルを遅れてみる。

が、腹が減るし、ダンスが最悪なので出て、CCPのジニーからサンドウィッチとかをもらう。

10時半頃見終えた人々と合流したのだが、私の見ていたのは二階のスパニッシュダンスでミュージカルは一階で上演されていたものであった。

バスでラグーナに帰る。

夜の光景を見る。夜間のドライヴは人を思索的にさせる。

以前私は酔っ払って運転するのが好きだった。だから車は買うまいと心に決めた。でも買いたい気もある。

■十月十日 No.1103
体調最悪。

昨日バスが寄ったドライヴインで買って食べたホットドッグがよくなかったらしく、同じものを食べたトノもまたうんうん唸っている。

夜中に脂っぽいのを食べてはいかんな。

そういうわけでとっととリタイアして部屋に戻り横になると、あっという間に寝入ってしまう。

夕方からまた話し合いに加わるが、まるで元気なし。

■十月十日(夜) No.1104
突如大雨。しょんぼりとベッドにいる。

それにしてもジニーといい、ドライバーのジョエルといいみんなとても親切だ。

おとといの地震マニラは震度四ということだが、震度六の地域もあり、ところによっては停電もあってけっこうなことだったらしい。この規模の地震はここでは珍しいということだ。

ディンドンは初体験でたいそう驚いたそうで、マニラトラウマと称し、まだからだが揺れているみたいだといい、そのときにはホテルの部屋部屋からバンツ一丁あるいはブラとパンツだけの人々も飛び出してきたという。本当かどうかこのひとのいっていることはよくわからない。

マニラの夜、一晩でおよそ9000ペソ、日本円にして 1万8000千円相当を使っている人間が発覚。まあ、東京でならまだしも、ここでは相当の散在で、本人は深く後悔しているという。ちなみに日本人ではない、あしからず。スケベなりは何も日本人とは限らない。

いろいろなタイトル案がタイ人周辺から出ている。

『冬の赤鬼』、『白い赤鬼』、『愛と哀しみの赤鬼』、『哀愁の赤鬼』、『赤鬼ブルース』、『渡る世間は赤鬼ばかり』、『薔薇と牡丹と赤鬼』、『赤鬼の証明』などなどである。

ラウンジを横切るとトゥアがワインでできあがっていて、しきりに勧めるが、具合悪いと断り、お湯に葛根湯なんか溶かして部屋に戻る。急にジイサンになった気分なる。

鐘下君、寝言でなにやら女の名前をつぶやいている。多分今執筆中の登場人物の名前だろう。

それにしても鐘下君、規則正しく働き者だ。夜は十時まで書いてその後軽くビールなどをやって床に着き、朝も目覚ましなく七時近くに起きて、キーボードに向かっている。

■十月十一日 No.1105
爽快。13時間は寝た。

復活した。どうやら胃腸の薬と間違えて精神安定剤を飲んだようだ。常用しているわけではないので、たまに飲むとやたらに効く。

朝、松井さんが日に日に若くなっていき、今や青春ドラマのわか先生みたいにも見えるということから、またいろいろなタイトル案が出される。

『俺たちの旅』、『俺たちの空』、『三年B組ケンタロー先生』。最後のやつで重要なのはディンドンが用務員のおじさん役で出演し、実はテロリストだったという真相が隠されているのだ。

午前中、グループに分かれ、我々のところは現代のテロリズムについての徹底討議。

ムスリム、オウム、日本赤軍、ミンダナオ島のゲリラ、反米、反物質主義、コーランの解釈について等々。

コーランのなかのAKIDAHについてのことも聞き、イスラム教圏についての貴重な知識、情報を得、すさまじくおもしろい。

つまりムスリムにとっては国籍よりもムスリムであることが重要であるということだ。もし私がムスリムであるとしたらナムロンにとって私が何人であろうが、すでに重要な兄弟であるということだ。

ナムロン、トゥアらからなんで昨日の夜は寝てたんだとか文句を言われる。

そのトゥアから家族のことを聞く。

父親すずを発掘して一時期羽振りがよくて自分は大学に行けたということ。兄は父の仕事に従事し、南方でマフィアの抗争に巻き込まれ、床屋で銃で頭を撃ちぬかれて死んだ。この殺害は完全な人違いで、床屋の奥から二人目を殺せといわれていた暗殺者が間違えて入り口から二人目の席にいた兄が射殺されたという。

そしてかつて劇団と会社を両方仕切っていたが、その両方に我慢できなくなり、やめたということなど。

感動的な話を聞いた。

午後の討議でもまたいろいろ決まっていく。ジョシュがいないと議事がスムーズに進む。

司会をハービーが仕切っているのだが、時折まじめなのか冗談なのかわからない、THINK TANKの定義をしようとしてTHINKを囲み、「考えることです」とか、「THINK TANK以外の人は操り人形のように従います」には笑った。

議論中トノに「チンコタンクって発言してみろ」とささやいたが、何かあると察したらしく、無言のまま。

他の俳優を参加させるかどうかに対し、みんなはいらないといい、コップが「少ない資源のなかでやることが大切だ」の言葉にまた受ける。本当に我々は少ない資源なのだ、女優が圧倒的に少ないわけで、女装とかやらされる恐れ多し。おまえは得意だろといわれそうだが、もう女装の憑き物は取れてしまったのよ。

夕食後、いろいろ話すと9000ペソ散在したという男に聞くと、本人はそうはいわず、ただストリップを見ただけだと説明し、どうも若者のあいだで見栄を張って話を大きくしたり、聞いた話を大きくしたりといろいろあるようだ。

トノと一緒にやろうと話す。日本人とインドネシア人について考えよう。ムスリムとコーランについての学習をしなければ。

夜、鐘下君に見習って原稿を書く。

深夜、誰もいないラウンジのソファに横になり、テレビでなんかわけのわからない格闘技を見る。

■十月十二日 No.1106
調子よし。

午前各国のテロリズムについての様々な情報交換って自分たちがテロリストなわけではないが、本当にこのように話していくと話題はテロになり、世界がテロを巡っていろいろ動き、動かされ、思考、試行していることがわかる。

午後、快調に議題が進む。

が、最後のサブジェクトでおおもめ。人間が一番もめることはひとつに決まっている。最初にいっておくべきことを確認していないせいと思われる。参加者の責任ではない。

この期間において一番のバッドムードである。

大雨に見舞われ、夜は寒い。ナムロンは具合悪くて夕食を食べずに寝に入り、トノも寒さは苦手だと廊下でうずくまっている。

CCPで二年前に上演されたフィリピン人俳優による歌舞伎『勧進帳』のビデオをラウンジで見せられる。

なんだかすごい歌舞伎だ。

■十月十三日 No.1107
いよいよ終わりが近づいてきた。

鐘下君は早朝から執筆をしている。

朝のゲームを含めた30分ほどのエクササイズは実に体にいい。

トゥアが私と同い年であることを知る。

ナムロンは完全にショートして元気なく、寝転がってばかりいる。数日前の私だ。

会議はさくさくと進む。

夕食後、原稿を少し書いてウイスキーとシガーをやりつつディンドンと話す。

「君はこういう会議が嫌いだろう。すぐわかる。ぼくもだ」とディンドン。

ディンドンはジャカルタで墓場劇場という劇団を持っているという。

「なんで墓場なの?」

「墓が家のすぐ近くにあるんだ。劇団員は近所の人たちが集まった」

「じゃあメンバーはゾンビか」

というとやや不愉快な顔で黙ってしまった。

と、そのとき、停電。

部屋でコンピューターを使い、執筆していた鐘下君が廊下に出てくる。

しばし暗闇のなかにいるとアズザンも出てくる。アズザンからCDのインドネシアのポピュラーを聞く。売春宿のことを歌ったものというが、とてもいい。

トノもやけに私になついており、どうもインドネシアンと馬が合う。

遠くの山の稜線が浮かび上がり、蛍が飛んでいる。

いったん明かりがつくが、ジェネレーターで一時的についたもので12時にまた落ちるとセキュリティの兄さんが告げて去る。

松井氏加わり、飲んでいると本当に12時に再び明かりが落ちる。

ロウソクの明かりの下でウイスキーを飲み続ける。

■十月十四日 No.1108
最終日。

なぜかまた時計が日本時間に戻っており、一時間早く起こされる。二日酔い。

スーツケースの鍵が壊れて開かず、ナイフとスプーンでこじあけてと散々だ。

午前、近くの野外舞台でミンダナオのダンスをみんなで見に行く。子供が大勢集まっていてどうやら授業の一環ということらしい。

ミンダナオのムスリムのダンスである。

昼寝をしようとリハーサルルームの二階に行くとすでにソファでナムロンが大いびきをかいて寝ている。色々考えることが多くて脳味噌がはみ出ているのだろう、その寝顔は逮捕されたときのフセインに似ている。

作品のタイトルの決定。投票。

決定される。『HOTEL GRAND ASIA』

次にグループ名。

決定される。『THE LOHAN JOURNEY』

作品のキャッチコピー。

『CREATING NEW FICTION OF ASIA』

17時5分、終了。

ついさっき終わる。

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