彷徨とは精神の自由を表す。

だが、そんなものが可能かどうかはわからない。

ただの散歩であってもかまわない。

目的のない散歩。

癇癪館は遊静舘に改名する。

癇癪は無駄である。

やめた。静かに遊ぶ。

そういった男である。

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■九月某日 No.1075
そういうわけで秋の気配も近づいてまいりましたが、みなさん、いかがお過ごしでしょうか。酷暑のせいで胃腸、肝臓、腎臓の疲れなどいろいろ後遺症もあるとは思いますが、長くもあり短くもありの人生楽しみましょう。

そういうわけで、今は二俣川の少年少女への講義のために横浜にいるが、フランス旅行を記しておこう。


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■八月二十九日 No.1076
エールフランス 277便、23時の出発で、夜の空港は閑散としている。

なぜこんなにさみしい気分がするのかと考えたところ、海外はずっと大勢での行動が続き、一人旅は本当にひさしぶりだからと気がついた。自分で情けなくなるほど、ぼんやりとさみしい。あんまりさみしいので携帯でメールなど打つ。

しかも機内の席の通路側がとれず、窓際なので憂鬱で仕方なく、まあブラジルの24時間に比べれば屁みたいなものだろうと自分にいい聞かせていたのだか、搭乗すると幸運なことに隣のフランス人の夫婦が移動して三人分の席独占でき、横になってぐうぐう眠る。本当に寝入ってしまう。

午前4時ドゴール空港着。

タクシーでパリ東駅へ。閑散としている。ベンチで寝ている数名は酔っ払いかホームレスか。

DBミュンヘン行きで6時47分出発。

9時40分、ナンシー駅着。想像したよりまるで小さな駅。ぶらぶらしてカフェへ。

10時57分出発。

11時11分ポンタムッソン着。

スタッフが迎えに来てくれていて、すぐそばのホテルにチェックイン。

一時間後、会場の修道院へ。

修道院の礼拝堂が食堂に当てられていてみんなワインを飲み、煙草をぷかぷかやりばりばり昼食を食べている。

広報のチーフ、ファブリス、芸術監督のミシェルに挨拶。

14時、リーディング。修道院内の別の会場である。イタリアの作家のジェノバのグローバリゼーションへの抗議デモについて書かれたもの。

16時、また別の場所でリーディング。

ミッシェル・ヴィナヴェールの著者本人とアメリカ人俳優による9・11に関するテキストがフランス語と英語で語られる。

この作家は以前世田谷で鐘下がリーディングを演出して紹介されている巨匠だ。

いったんホテルに戻る。帰り道、日曜のマルシェのなかを通る。

19時半、ミシェルたちと同じテーブルで夕食。

バイキングではないが、前菜、メインと皿を自分で取りに行き、飲み物、デザート、パン、チーズ、果物はとり放題であり、しかも美味であり、こうでなくして文化芸術が育つか!と感じ入る。食の贅沢と快楽、アルコールと紫煙がなくして劇ができるか、といっぺんに環境に同化する。ばりばり食べ、がんがん飲む。

バスで劇場にみんなで移動。

20時15分。フランスの作家による劇、開演。

22時、会場に戻り、徒歩でホテルに帰る。

ポンタムッソンとはルクセンブルグとの国境に近い小さな村であり、マンホール工場で有名で実際街中のマンホールにポンタムッソンと刻まれている。

■八月三十日 No.1077
正午、会場の食堂へ。いろいろな人としゃべりつつ。

集まっている人々はリーディングに参加している俳優たち、演出家、ヨーロッパのあちこちからやってきた劇作家、批評家、若い劇作家志望者たちだ。志望者のための劇作ワークショップも行われているためだ。

俳優たちはフランスの一線級が参加している。高いギャラではないが、未上演の戯曲の言葉を自分たちが最初に口にすることに多大の興味を抱いているという。

どうだね、この意識の高さは。日本の俳優もこういこうぜ。

14時、マケドニアの作家のリーディング。聖書を題材にしたもの。

16時、ブラジル、サンパウロのスラムを舞台にした戯曲のリーディング。

フランス語は理解できないが、演出、俳優たちを見ているだけでおもしろい。想像力を駆使して見れば苦にならない。

町、といっても本当に小さなところなのだが、中心部を歩く。

ホテルでテレビをつけるとオリンピック男子マラソンが中継されている。飛ばすブラジル人選手に妨害して抱きつく男あり。

19時過ぎ、再び会場へ。

バーでミシェル、閉会宣言。

夕食のメインディシュは骨付きの鴨肉とインゲンをオリーヴオイルで炒めたものではっきりいって美味い!

21時10分ごろ、バスで移動して劇場に行き、ミシェル自身の演出の『男たちとの物語』を見る。今春世田谷のリーディングで紹介されたもの。女性の一人芝居。

終演後、バスで会場に戻り、23時、コンサート会場に入場。

ひとりの俳優によるオリンピックネタの漫談。

なんでこんなにフランスはメダルをとれないのか、時間を守らない世界決定戦とかやれば金を取れるのに、といったような内容らしい。

コンサート始まる。ジャック・イヴ。ジョルジュ・ムスタキと同時代のフレンチポップ。

コンサートは延々と続くが1時過ぎに出て、ホテルに戻る。

■八月三十一日 No.1078
11時半、チェックアウト。

会場へブランチをとりにいく。

まさしく祭りの後だ。でもしっかり食事はある。

昨日のコンサートは3時を過ぎたという。

ファブリスとミッシェルにさよならの挨拶をして出ようとするとちようど昨日のシンガー、ジャック氏が現れたので握手を求める。

13時過ぎ、駅に向かい、ナンシー行きに乗る。

14時27分ナンシーからパリ行きに乗る。二等は満席だ。

17時過ぎ、東駅着。

いい天気だ。タクシーでホテルへ。今回はルーヴル、オルセーに歩けるところにした。目的がそれだからだ。

18時過ぎ、チェックイン。すぐに出てサンジェルマン・デ・プレを歩く。名画座のプログラムを確認する。アクション・エコールではフェリーニ特集。そしてなぜか各所でマンキウィッツをやっている。

『ポリドール』でビール、赤ワイン、ほうれん草のオリーヴオイル炒め、タルタルステーキを食べる。

ブロンドの巨乳の肥満のウエイトレス、まさにフェリーニの『アマルコルド』の大女のごとき彼女から目が離せなくなる。

帰途、教会の前のストリートバンドのブルースにひっかかる。

■九月一日 No.1079
ルーヴルへ。

二階のドゥノン、シュリーから始め、三階のシュリーまで至る。

カフェでキッシュなとじを食べ、ホテルで少し休んで、夕刻またルーヴルへ。木曜なので夜まで開館している。

リシュリュウの三階にいく。

もうここらで限界。くたびれはて、目がよく見えなくなる。フェルールあたりで吐き気に襲われ、このまま床に吐いたら罰金とか取られるだろうかとさらに見続ける。

ルーヴルを短期間で制覇するということは『戦争と平和』を一気に読み終えようとすることと同じだ。

■九月二日 No.1080
今日はオルセーへ。

途中、いかにもおふらんすといった感じの教授風のオッサンが教え子風数名を連れて歩いているのに出くわす。

三階のセザンヌの部屋で中央に置かれた椅子に腰を下ろし、まどろむ。

それから見て歩く。

ゴッホ、モネ、ドガ、マネ、ゴーギャン、ロートレック、スーラ。

キャンバスの筆致をしっかり見る。

二階。ボナール、ガレ、ギマール、ムンク、クリムト、象徴派と自然主義。

ホテルに戻り、休む。

散歩。オデヲン、サンミシェルを抜けてノートルダム寺院まで行き、戻り、途中のサンミシェルの名画座でベルイマンの『SAGA』を見る。途中で20数年前深夜テレビで見たと思い出す。ベルイマン節は例によって苦い。

出ると小雨。

寿司を食べる。

■九月三日 No.1081
快晴。気温も高い。

オルセー駅からPERCに乗ってヴェルサイユへ。

Aセクションを見終えてイヤホンガイド付きのCセクションをまわると、もうまんぞくまんぞー、見たあーって感じ。

でもまだ庭園があるので歩くが思ったより広大で大トリアノンでギブアップしてやってきたミニトレインに飛び乗る。乗っているのはじいさんばあさんばかり。

小トリアノンつまりルイ15世のラブホ、愛の殿堂つまりマリー・アントワネットとフェルゼンの同伴喫茶とかは行けず。

まあいずれまた誰かと来るだろうからそのときにとっておこう。

夕刻、ホテルに戻り、シャワーを浴びて『フロール』。

で一服。

20時、近くの映画館でオゾンの新作『5×2』を見る。

一組の男女の逆回転人生。つまり離婚、出産、結婚、出会いという流れ。ピンターの戯曲にある構造。ノエの『アレックス』もやっていたあれ。

夏の気候。部屋の窓を全開する。

CNNはニューヨークの共和党大会とロシアの学校人質事件。

■九月四日 No.1082
午前中、近くのドラクロア美術館にいく。そこいらをぷらぷら歩く。

地下鉄を乗り継いでシャイヨのシネマテークに行くが閉まっている。

仕方がないのでエッフェル塔見てパッシー駅から凱旋門まで乗り、シャンゼリゼを歩くが、なんだかアホ面した観光客ばかりで嫌になる。日本人のことではないよ。色々な国の人だよ。自分も観光客なんだけど。とにかくつまんないのでフランクリン・D・ルーズペルト駅から急遽ルーヴルまで乗り、外でパンの腹ごなしをして美術館に入る。

エジプト、ファラオからメソポタミア文明、ハムラビ法典、飛牛の宮殿。

ナポレオン三世のアパートメント、半地下のマグダラのマリアなどなど。

ほぼルーヴルを制覇!

もうまんぷく、まんぞくまんぞー!

夜、『ドュマゴ』でビールをゃって『ポリール』でラム肉と赤ワイン。

かつての思い出のホテル「ル・クレマン」のバーで一杯やろうと思いつき、人に聞き、週末の喧騒を行くも辿り着けず。

『フロール』でパステイスをひっかける。

■九月五日 No.1083
オルセーへ向かう。無料の日で行列。

一階のマネ、クールベに入れあげる。「オリンピア」で佇む。例えばこれとクールベ、アングルの「泉」などと比べ、どこが革新であったのかとか考える。

これでオルセー制覇!もうくったくたで目がよく見えない。

もうまんぞくまんぞーだよ!

部屋で休んでサン・ミッシェルを散策。

オデヲンからリュクサンブール公園へ。

映画を見ようと思い、ル・シャンポに行くとアベル・フェラーラとエットーレ・スコラ。そういう気分ではないので、アクション・エコールに行き、チャーリー・チェイスの短編四本のニュープリント、レオ・マッケリー監督というのを見る。チャーリー・チェイスというコメディアンを初めて見たが、もうすさまじいおもしろさで笑った笑った。『偽足結婚』とかの四本である。

ハル・ローチのプロデュース作品であり、このひとの喜劇を実は『ちびっこギャング』で幼少の時私はこれをテレビで見ているのであった。ご縁である。

『ちびっ子ギャング』っておもしろかったよなあ。

ホテル・ル・クレマンを探し当てるが日曜でバーは閉まっている。改装されてきれいになっている。

近くのバーでビールをひっかける。

■九月六日 No.1084
空港、ロワシーの免税でヴーヴクリコ、チーズ、フォアグラ、コイーバのシガリロなど買ってパリとお別れ。

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というわけで今二俣川の講義三日間を終えてこれを書いています。

小泉純一郎がブラジルの会見で泣いていたが、実はこの気持ちわかってしまった。

サンパウロというのは、日系移民のこととか、いろいろどこか懐かしい日本があり、涙が出てきてしまう場所なのだ。

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