彷徨とは精神の自由を表す。

だが、そんなものが可能かどうかはわからない。

ただの散歩であってもかまわない。

目的のない散歩。

癇癪館は遊静舘に改名する。

癇癪は無駄である。

やめた。静かに遊ぶ。

そういった男である。

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■六月某日 No.1021
花園神社に向かう。唐組を観に。

原田芳雄氏、金守珍氏らと久々に会い、わいわい話す。

テントに行くと後の飲み会で必ずといっていいほどなにかしら煽られる。一年前は確か誰かにまた小説書け、書かないのかと煽られた。本当はそのとき書いてる最中だったんだけど、へらへらしていた。

今回はもう役者やらないのかとかまた映画撮れとか煽られる。へらへらしていた。そのうちに酔っ払った。

唐氏も金も十数年前のことを昨日のことのように語り、いささか戸惑う。

いつも思うのだが、テントはいわゆる演劇業界とはまるで隔絶した場所だ。そこがいいのだが、ある意味徹底して閉ざされた空間でもある。

■六月某日

No.1022

午前中、三茶で打ち合わせ。

せっかく来たので『時の物置』を観る。ちょっと緩いな。とにかく二日続けて芝居を見た。アングラから新劇まで、日本の現代演劇の幅の広さを痛感した二日間だった、なんてそらっとぼけたこといったりしちゃって、ぼく。

夜、テレビでプライドの試合を見る。

■六月某日

No.1023

レンタルビデオ店で『ラスト・サムライ』の横に『レッド・サン』が置いてあるのを発見して借りて見る。

小学生のとき公開され、見て以来だ。

1971年製作。

今回初めて知ったのだが、これはSoleil Rougeという原題のフランス映画だったのか。

アラン・ドロンはフランス人だからともかく、チャールズ・ブロンソンも三船敏郎もフランス語をしゃべっている西部劇という素晴らしく奇天烈な映画で、おもしろい。

このフランス語は吹き替えだろうか。これは本当にフレンチ・ウエスタンなのか、ビデオがフランス用ということなのか、どうも三船は英語を話していた記憶があるのだが。しかしアメリカ人がこのようなアメリカ人像を描くまいとも思い、しばしば悪意さえも垣間見られ、やはりフランス製かと合点もいくのだが。

とにかくアメリカ人がサムライの精神に感化されていく過程を描いており、『ラスト・サムライ』の原型ともいえる。予想外におもしろい。

■六月某日

No.1024

最近事務所では頻繁にサンパウロとやり取りをしているが、ブラジルの友人によると、二日に一度メールを寄越すなど普段のブラジル人からすると考えられないという。

ブラジル人の仕事ぶりとはプラグマティズムでも情とも違い、冗談でなくサンバのリズムと似たノリなのだという。私にとってこれは遠い世界ではない。

それにしても盗撮がいろいろ騒ぎになっているが、みんなそんな苦労してスカートのなか見たいのかね。

それにしても植草容疑者の家宅捜査でその手のビデオ、DVDとか出てきたということだが、これは個人的趣味なんだから容疑とは直接関係ないのではと思うのだが、立派な証拠になるのだという。

おかしい。みんな冤罪になるぞお、家のエロ物とか今すぐ捨てようぜ!

早稲田でやるリーディング『渇望』の稽古が始まる。

ひさしぶりに文学部キャンパス、演劇実習室へ。こんなに狭かったかとびっくり。

帰り、金城庵でいっぱいやってると恐らく講義を終え学生と酒宴をしていたらしい坪内祐三氏とばったり。

二言三言、さらに二言三言とまことに印象的な出会いを遂げる。

■六月某日 No.1025
早稲田の戸山キャンパス内演劇実習室で稽古。

それにしてもキャンパスの学生達は楽しげだねえ。

夜、新宿の『台南ターミー』の上に『幻の手羽先山ちゃん』が開店しているのを発見。しかも二階、三階、四階だ。恐るべし名古屋ブーム。

■六月某日 No.1026
雨。

午前九時半、会場の井深ホール入り。照明に立ち会う。

午後一時、マイクチェック、明かりの具合などをしつつ稽古。続けて二回目の稽古。

四時半、開場。けっこう人が埋まっていく。

五時、開演。よし!

六時よりシンポジウム。精神科医の斉藤環氏の発言が興味深い。

質問も的を得たものばかりでよかった。八時過ぎに終了。

イタメシ居酒屋で打ち上げ。翻訳の谷岡氏ももちろん合流。この人はほんっと飲みながら馬鹿話をぐだぐたするのが好きな人で、こうやって現場の人間と普通に酒を飲める人は学者、大学人では貴重だ。ほんとに俳優と馬鹿話ばっかしてる。

さあて八月の第三エロチカ公演、やるぞー。生ぬるく、いたいけな劇団員をしごき、いびり、もう堪忍してといってもしごき、いびり、ぼぼ全員が逃げ出す勢いでやる。それぐらいでないとこの『渇望』はできない。

■六月某日 No.1027
紀伊国屋でいろいろ本を買い込み、tsutayaでいろいろ借りてくる。

1969年のアメリカ映画『ハネムーン・キラーズ』を見る。おもしろい。隠れた名作だ。

■六月某日 No.1028
ブラジル行きまでいろいろ書かなければならないものがあって忙しい。

夜、柊アリスの出ているダンスを見に俳優座にいく。

村島と中村もいて、始まると三人で、「よ、ヒイラギ!」とか「ありんこアリス!」とか掛け声をかけて周囲から大顰蹙を買う。

■六月某日

No.1029

原稿書き。さらに絵にとりかかる。

『SEX アナベル・チョンのこと』を見る。

十時間で251人とセックスした中国系シンガポール人のポルノ女優のドキュメンタリー。

■六月某日 No.1030
脚本家・野沢尚氏、自殺の報。私と同い年。ニュースでこのことを中心にして中高年の自殺急増についての特集をしている。私も中高年というわけか。しかし40代でこういうのは早すぎるんじゃないの。別に若ぶるわけじゃあないけど、若い才能など結局はアブクみたいなもので、その年にならないと見えないことがやはりあるのであって、年をとることと創作意欲は反比例しないと思うのだが。

氏の『眠れる森』はよくできたミステリーだった。

キェシロフスキ『殺人に関する短いフィルム』を見る。

すでにブラジル入りをしているスタッフより写真付きのメールが届く。現地の新聞の一面、文化欄にでかでかと準備でやってきた氏の動向が報じられている。さらに小道具の日本刀を探しにいく日にはテレビが取材にくるという。

■七月一日 No.1031
午前中、三茶で打ち合わせ。

『沈みゆく女』を見る。

マイケル・ムーアの『華氏911』に関してデーブ・スペクターが日本のマスコミは実態を知らないで騒ぎすぎと書いているのが気にかかる。どうもマイケル・ムーアって山師くさい。山師でもかまわないけど、アポナシの取材を勝手にやって正義感の顔しているのが、どうもって思う。

■七月某日 No.1032
絵を完成させる。

人の住所を調べるので昔の名刺を整理していると、もう亡くなっている人のものが少なくない。その事実にしばし手が止まる。

三百人劇場『コリオレイナス』を見る。小松がこの舞台で舞台美術のデビューを果たしている。

かつてこの戯曲を最初に読んだ十数年前ではこの主人公にやたら感情移入した覚えがある。今はまったくそれはないのだが。しかしこの主人公はハムレットと並ぶほどに不可思議ではある。

夜、いろいろアイデアが湧いてパンツにメモする。

■七月某日 No.1033
マーロン・ブランド死去の報。私の十代に多大な影響を与えた俳優だった。

私は反抗する中学生で、話し方、ガンの飛ばし方、姿勢を悪くして人の話を聞く格好、喧嘩のしかた、肩を揺する歩き方などをブランドの演技から学んだ。ジェームス・ディーンではなく、ブランドだった。

ブランドはいろいろいわゆる名画にも出ているが、変な映画にもやまほど出ていて、それらも捨てがたい。

『妖精たちの森』というのが好きだ。ヘンリー・ジェイムズの小説『ねじの回転』をもとにしているのだが、ポルノぎりぎりの映画。

『禁じられた情事の森』というのも変でいい。ジョン・ヒューストンの素敵な失敗作。

自らメガホンをとった『片目のジャック』もつまらなくていい。

『ラストタンゴ・イン・パリ』は傑作だ。

エドワード・ドミトリクの『若き獅子たち』ではナチの青年将校を演じていた。

アーサー・ペンの『逃亡地帯』も思い出す。

同じペンの監督でジャック・ニコルソンと共演した『ミズーリ・ブレイク』。期待するなというのが無理なのだが、見事につまらなかった。しかしそのつまらなさがいいのだ。おもしろい映画ってのは存外退屈だ。

それにしても高岡早紀ちゃんの旦那さん、保坂さんの「人の女房いてこましといて、火遊びとはなにごとだ」ってのはすごい台詞だ。こんな言葉普通すぐには出てこないですよ。

■七月某日 No.1034
いろいろブラジルの準備。

先乗りしているスタッフがいろいろサンパウロで観劇しているというが、舞台のテンションに関して敏感な客層で、ある意味怖いお客さんだという。

とにかく着いたら翌日は稽古だ。

丁寧に作り直す。

ブラジルの人が『ハムレットクローン』のビデオを見た際、最後の痙攣シーンで「この人は具合悪いんですか」と聞いてきたという。吉村のことだ。

ところでなんでブラジルって聞く人いるけど、演劇祭に招待されたからですよ、呼ばれたからいくんです、よばれたから! わかっとらんにい。

■七月某日 No.1035
高田馬場で打ち合わせ。

三茶で鐘下の通し稽古を見る。公演期間がもろにブラジルにかかっていて本番を見られないので。

実は私は吉本多香美さんのファンで、その旨告げようと思ったのだが、そういう雰囲気でもないので諦める。

■七月某日 No.1036
暑い。なにもする気が起きない。

小竹向原のサイで『その鉄塔に男たちはいるという』を見、見終わって酒を飲む。

さあて、ブラジル行くぞ、ブラジル!

禁煙は二ヶ月続いている。

参院選の不在者投票も済ませた。反自民だす。

例によって外国にはヴァイオは持っていかないので、それまで日乗はお休み。

帰国したら一挙にサンパウロ日記。みんな、楽しみにしててや。

でもどうか癇癪を起こさずに済みますように、起こすようなことが起きませんようにと願いつつ。

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