彷徨とは精神の自由を表す。
だが、そんなものが可能かどうかはわからない。
ただの散歩であってもかまわない。
目的のない散歩。
癇癪館は遊静舘に改名する。
癇癪は無駄である。
やめた。静かに遊ぶ。
そういった男である。

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■七月某日

No.721

午後、三茶で三時間打ち合わせ。

くたびれたのと二日酔いのせいもあり、その後予定していた観劇は断念。小空間で集中できる自信なし。パニック障害起こしそう。

しかし帰る気もせず『マトリックス・リローデッド』を見るが、思いのほかつまらないのでびっくり。特に地底の王国のシーンすべてが圧倒的につまらない。アクションシーンもほとんどCGだと思うとどうってことない。この監督達にドラマの構成力がまるでないことが判明した。終わり間際本当に目眩を起こす。しかも「つづく」で終わるとは何事だ。売れたんで傲慢になってやんな。

■七月某日

No.722

十時間眠る。

やること多かりしが何もする気なし。一日ほぼぼんやりして耳鼻科いって耳の穴ほじくってもらって刺身とセロリ買ってビデオ借りて帰ってくる。

『デッドマン・ウオーキング』ちゅうのを見るがまったくおもしろくない。

適度の飲酒で刺身食って寝る。

■七月某日

No.723

一日中ぼんやりしている。なにもやる気が起こらない。

『ミラーズ・クロッシング』を見る。こういうときには、そこそこおもしろく、それ以上でも以下でもないと予想できるコーエン兄弟が一番適当と思って見たところ、予想は大当たり。

銭湯いってびっしびし汗をかく。

■七月某日

No.724

やっとなんとなく始動し、書き物をするが調子上がらず。

アドモロバルの新作『トーク・トゥ・ハー』を見る。こうなるともうメロの王道だ。しかし自分が今書いているドラマのことが頭から離れず、集中できない。

■七月某日

No.725

執筆。少しのってくる。

夜、新宿で古い知人と飲む。悪巧みの算段。気持ちよく飲み、様々な情報を得る。

■七月某日

No.726

事務所でドイツ公演のための打ち合わせ。

その後、スズナリでガジラの『アンコントロール』を見て、公演後のトークセッションに出る。鐘下氏と。

劇は後半15分辺りから、なぜかキレはじめ、その唐突さが不気味だ。突然ハチャメチャになる。批評家は恐らく劇の破綻を指摘するだろう、確かに破綻しているのだが、そのキレ方にどこか作者の決意のようなものを感じる。往年のATG映画によく後半数分で突如キレルものがあったように記憶する。おさまりのいい芝居など飽き飽きだからこれはこれでいい。しかしこれで二時間十五分見られたのは俳優達の力量に因るところ大だと思う。これがかつての情念丸出しのアングラ役者にやられていたら途中で胸焼けがして耐えられなかっただろう。「かつてのアングラ役者」という物言いがどのあたりを指すかは微妙なんですが。

■七月某日

No.727

やっと体が元に戻りつつある。

『アッコにおまかせ!』とか『ザ・ノンフィクション』とか『笑点』とか見て弛緩していい日曜日。

『リービング・ラスベガス』を見る。ハリウッドの1ジャンルであるアル中映画である。主役のふたりニコラス・ケイジとエリザベス・シューはいいが、演出はゆるい。ほとんどムード映画。だが夕暮れのベガスのプールサイドで『第三の男』を見るシーンの叙情とかは捨てがたい。だが『第三の男』でなくてもいいだろう。もっと適当なのりのがあるような気がするが。音楽もいい。サントラを買いたいところだ。それにしてもアル中の元映画シナリオライターと売春婦の愛という設定は泣かせる。その設定を聞いただけで泣けてくる。

しかし多くのアル中映画の登場人物と同様、末期のケイジが太ったままで肌つやもけっこういいところが白ける。肝臓が痛め付けられるわけだから、外観ももっとぼろぼろになるはずだ。

■七月某日

No.728

終日、執筆。
■七月某日

No.729

チラシ、ポスター撮影に立ち会うため恵比寿のスタジオへ。

『ミニミニ大作戦』を見る。とぼけたタイトルゆえに誤解も多かろうが、予感通り、おもしろい。集団泥棒映画の王道をいく出来だ。CGを一切使わずにこれだけおもしろい映画が撮れるんだぜといった意気込みが感じられる。原題はThe Italian Job。冒頭のベニスでの強奪シーンが実に良い。ベニスとアクションというアンバランスのおもしろさ。この粋なタイトルがミニミニになってしまった。『ミクロの決死圏』みたいな小さくなった人間がスパイかなんかすると勘違いしてしまうな。

■七月某日

No.730

執筆。

そういえばガジラのトークセッションのときに題材にタブーはあるかという質問を客席から受けてそのときはないと答えたが、思い直すと、今レイプと幼児虐待は書きたくない。
■七月某日

No.731

執筆。

クールダウンのために新宿のバーへ。といっても『風花』じゃないよ。

ここにはマイグラスを置いてあるのですよ。でかいグラスにシングルモルトついでもらうわけですわ。もう戯曲のなかの人物達が頭のなかでわあわあ騒いでいて、こいつらひとまず追い出すにはウイスキーかジンが必要なんですわ。

と寛いでいると、現れたるは山田山子!豹柄のタンクトップとかきてたるんだ二の腕丸出しで酔っ払ってやがんの。

山子が『ハムレットクローン』を見に来ていたことなど全然知らなかったし、気がつかなかった。

「あんためげないわね」

いえいえ、わたくし、全然根性野郎じゃなくて、年中モウヤンナッタだのクッタビレタだのいって、いうことでストレス解消していきながらやってるんですわ。

「あんた闘ってるのね」

いやいや、闘ってなんていません。普通にしているとこうなっているだけです。闘うなんてそんなだいそれたこと、足立正生になってはじめていえることで。

といちいち反論したかったのだが、怖いのでふんふん黙って聞き、逃げる機会を探っていた。

すると、やがて山子、「力道山の妻は許せん」とカウンターをたたきだす。

結婚して数ヶ月で力道山は死んだわけで、それを知ってる顔して回想録書くのはいかがなものかということだ。

しばし、力道山の妻をめぐって激論。
■七月某日

No.732

神保町で編集会議。

その後、執筆。すこぶる快調。
■七月某日

No.733

三茶で打ち合わせ。

その後、『ハムレット』見る。

そういうわけで、わたくしバリ島にいってきます。例のアジアの企画です。

PCはめんどうだから持ってかない。帰国したらバリ日記ネッ。
■八月某日

No.734

バリから帰ってきて三日が経った。はっきりいってバリにやられた。

しかし余韻に浸る間もなく、稽古が始まる。帰国してからこの間にバリの夜に書き継ぎ、完成させた戯曲も渡した。

ではバリ日記といこう。しっかし今から書くのもめんどくせーな。

写真があればおもしろいのだが、とにかくめんどうでカメラもPCも持っていかなかった。最近ほんといろいろめんどくさくて、悩みなんかなんにもない。悩むのがめんどうなのだ。

バリ日記

七月某日

夜八時半、JALでデンパサール空港に着く。ジャカルタからバリ間の機内はすかすかで、ホテルへ向かう運転手もクタのクラブ爆破事件とSARS以後の不景気をぼやくぼやく。

東京でなんやかやとやることが多いので私はみんなより数日遅れての参加。

周囲は真っ暗。みんなが迎えてくれる。部屋は木製で広々としている。天井に三葉の扇風機がぷるんぷるん、南国の風情。しかしアイバンと相部屋。だいじょぶかよと思いつつ、けつの穴にワインのコルクを突っ込んで眠る。

七月某日

早朝よりあちこちでにわとりが鳴き始め、文字通りにわとりの声で目覚める。

朝食は果物ジュースにトースト。クロワッサンもあり卵料理もあり、バリ風チャーハン、ナシゴレンも所望できる。

九時よりケチャのワークショップ。部屋より芝生の敷地を降りていくと壁が吹きぬけになった板張りの広い稽古場が現れる。プールが隣接している。

リナというケチャの振付師による指導で始まる。リナといってもいかつい顔のおっさんだよ。これが延々四時間。松井憲太郎氏も加わっていて、とりつかれたように、まるで何かを振り払うかのように髪振り乱し、チャッチャッチャッと声を張る。松井氏は昨晩のアズザンのWS、稽古場のすぐ下の川を使った儀式でもひとりとりつかれたように夜空に向けて両腕を掲げていたという。

ケチャは集団の様々な声のアンサンブルによって構成されるのだが、やっている本人たちにはまるでわからない。

昼食後、こんどはジョシュ指導のWSが始まる。グループ分けをして寸劇を作る。私はジョー、ロディ、トノとなのだが、もうくたびれて眠くて思考ゼロ。人の言われるまま、やる。

ぐったり疲れる。夕飯はバイキング。様々なバリ料理が並び、ビールを飲む。

夜、敷地内を散歩して夜空を眺める。自分がどこにいるのか、敷地外はどうなっているのか未だ知れず、いきなりケチャをやっているおれとは何だ?

おれは一体なにしにきたのだ?

と早くも東京が恋しくなる。

さあ、どうするタケポン、この危機を乗り越えられるのか、

続きはまた次回!

■八月某日

No.735

それにしても帰国したと思ったらすぐに梅雨が明けてなんという暑さだろうか。

稽古場にたどりつくまでにほとんど体力を消耗してしまう。

ところで前回の日乗の反響としてケチャのWSとはどんなものかというのが多かった。ようするにケチャやるわけですよ。

チンボチンボチンボといいつつ踊って輪になって、チャチャチャチャ、ポンポンポンポンポンポン、ダゥービーバービー、チャチャ、エスエス、ビン、タュルルルルルルルルルルルー、ウモーーーーーーーーン、チャチャチャチャ、ビョットュルルルルルーとやるわけですよ。けっこうトランス状態になるわけです。


バリ日記2

七月某日

前日と同様、にわとりの声で目覚める。

九時からアイバンとハーレッシュのWS。ふたりが選ばれ、互いの事情は知らされず、しかも英語を一切使わずにコミュニケーションをとるというもの。いきなり私とアズザンが指名される。私に与えられた任務は庭のマンゴーを取ろうとしているアズザンを阻止するという。アズザンはインドネシア語でしゃべり、私は日本語。これは存外面白かった。大受けであった。二回目はジョシュとトノ。数組やってジョシュとトノと私。ジョシュと私がインドネシアで芝居を上演するため検閲官のところに許可をもらいにいくという設定。ここでもノーイングリッシュ。このWSでは英語にこだわらずにそれぞれの母国語で芝居を作っていく可能性のおもしろさを発見した。私も英語でせりふをいうのはどうも感情がこめられず、瞬発力に欠けると感じていたからだ。

一時頃、終わり、昼食後、ディンドンのWSをさぼって敷地外を散歩する。近くの店で水、コーラ、ノート、ペンなどを買い、東京から持ってきた締め切りの迫る仕事に耽る。

電話がかかってきて5時からのグループ発表を見るように促され、その時間に再び稽古場に向かい、三組の寸劇を見る。

深夜、バルコニーでウイスキーとシガリロをやりつつ、夜空にそびえるマンゴーの木を見上げる。雨がざっと降ってくる。明日は休みなのでアイバンはクタあたりに繰り出したらしく、帰ってこない。

七月某日

稽古休みの日。アイバンが帰ったのは朝の五時頃であった。

みんなは午前のラゴン踊りを見に行ったが、私は残り、午前中プールを堪能する。

プールサイドに寝そべると敷地の外に広がるライステラス、ようするに段々の田んぼの向こうからあげているらしい凧が三つ四つと見える。凧がぶんぶんと鳴っている。プールサイドに用意されたタオルは昔の布団の匂いがする。陶然とした気分。これでマリファナがあればもういうことなし、なんて、嘘嘘、らもちゃんになっちゃうよ。

午後、ウブドに車で向かう。田んぼが広がる。犬もにわとりもアヒルも野放し。人間の欲望も野放しで道端でエッチしている、というのは嘘。

パサールを出発点にしてお買い物。みんな必死の客引き。モンキー・フォレストまで歩く。

ホテルに戻り、五時半からガンブー踊りを見るためにみんなと徒歩で寺院に向かう。20分ほどで着く。

寺院の境内で踊り手たちが化粧をしている。七時から九時までの上演。語られるジャワ語のイントネーションが大阪弁に似ており、一瞬吉本を見ている錯覚にとらわれる。

今日はジョシュの誕生日ということで帰るとケーキが用意されている。

深夜、いつまでもバンジョーを奏でているジョシュたちにアイバンが窓からうるさいと一喝。

七月某日

またまたWS。今日はトゥア、アズザン、ハーレッシュ組。一日目の発表はおみやげに持っていこうとした手榴弾を空港で爆破させてしまった日本人ジャーナリストのことを元にして作ったのだが、これでは小学生五人を監禁して当人は自殺したブルセラ売人の話をもとにすることにした。それを基盤にして各々の国の事件を絡めて語るということだ。トゥアはタイで今話題のマフィアのこと、アズザンはインドネシアの売春婦のこと、ハーレッシュはシンガポールの言論統制のこと。私はこの事件以外にも今次々と起こる少年犯罪等々のことを話したのだが、みんな実に興味深いと妙に関心していた。やはり日本はアジアのなかで特別に病んでいるということだ。

通訳のノブも俳優として参加することに。この人、東大出身で今は京大の院生。奨学金をもらって三年間、ジャカルタで地域調査をしているという青年。細い目でちまちまとした顎鬚を生やし、カニみたいな顔をした人だが、英語、インドネシア語が堪能で実に私という人間のノリに合った人である。つまりどういうことかというとまじめにふざけることができる人で、この組以外にもすでに幾多ものWSに出演していてなんだか日に日にうまくなっていく。人気者でロディとトゥアに狙われているという情報を得る。ゲイチャンにもてもてのカニ顔の青年である。前日のナムロン主導の寸劇であった乱交シーンではマスカキ演技をしたり、ナムロンにケツ掘られたりでサイコーだった。そのさい、ナムロンは尺八演技も披露したのだが、自分の舌で頬を膨らませ、ほんとうにやっているように見えて実にうまかった。感心した。参考になった。

私が犯人のロリコン青年を演じ、ノブを含めた四人が監禁された少女という設定で作る。

最後は三人のパンツを値踏みし、被り、「これが私のパラダイス」といってハラキリで死ぬのである。

発表すると大受け。

三組にわかれたのだが、ジョシュ組がまだできていないと聞いてアイバン、怒って怒鳴る。

発表後互いの上演の批評等々で終わったのは九時。板張りの床にイモリが這っている。部屋に戻る夜の芝生にはカエルが跳ねる。

今夜の夕食は様々なバリ料理が並び、デザートにはタピオカで素晴らしかった!毎日いいのだが、今夜は特に素晴らしい!

食べ過ぎる。

食後、ジョシュと話す。生粋のニューヨーカーで今はブルックリンに住んでいる。父親はミュージシャンだったということだ。このグループはゴシップがないという。ゲイと既婚者が大半を占めていてゴシップのありようがないということだ。それでは男たちの間ではどうなのかと聞くと、よくわからんと答える。

まあそうだろな。

深夜、東京の仕事をする。

七月某日

前日と同じ組でさらに深く仕上げる。

三組の発表。

今日でアイバンとハーレッシュとはお別れ。ふたりともシンガポールに帰らなければならないのだ。

昼食後、ウイスキーがなくなったのが気になって外の店を覗くもアルコール類は一切なく、次にフロントで聞くと、とりあえずシャンパン二本はあるというのでもらう。

そんなこんなで午後のディスカッションに遅刻する。

それから七時まで互いの組の批評、今後の方針、今のアメリカのことなどでまさしく侃々諤々。ぐったり疲れる。

夕食時、シャンパンを空け、えしさんからウオッカを分けてもらう。

みんな町に繰り出している。テーブルに残ったのは私と松井氏とナムロン。遠くでご詠歌のような節の歌声が聞こえてくる。カエルが鳴いている。

まどろみ、まどろみ、まどろみ。

バリの時間を満喫している自分を発見する。ぼんやりとしている、これだけで十分だ。

バルコニーでぼんやりと夜を眺める。愉悦。バリの愉悦。

七月某日

九時から一時間ほどの身体訓練でぐったり疲れる。

グループ分け。ジョシュ、ナムロン、ディンドンと。ジョシュとディンドンの提案でインスピレーションを得るために外を散策しようということになる。その前に30分ほど休もうと提案し、プールで泳ぐ。

パンジ、シュミットの案内で出発し、ライステラスのあぜ道を歩く。

田んぼ、青空、凧。立ちション。

ここがバトゥアン村であるということを初めて知る。

道端の店で甘い紅茶を飲む。

ニューヨークという名のギャラリー。建設中に9・11が起こったので忘れないためにこの名をつけたという。村には三百人の画家が住んでいるという。

店でいろいろな駄菓子を買う。コーヒーを飲んでいるとフランスから来たという娘ふたりと会う。ナムロンはしっかりちょっと可愛いほうの住所を聞き出している。鼻の下の産毛が濃すぎる。

ガンブーのバーサン家に行って話しを聞く。といっても何をいっているのかはわからない。寺男か夫だかわからないが、傍らのジーサンが半ば眠ったまま、目を開けると私をじっと見る。

その隣は仮面のペインターの家。作業中だったところ、様々な仮面を見せてもらう。

帰途、案内のパンジが道に迷い、子供に聞いた道をいくと、それがすごい道で田んぼのあぜを行き、竹が数本束ねてあるだけの橋を渡る。折れそうなのでひとりひとり行き、最後の私はバランスを崩してこれも竹の手すりを強く握るとばきりと折れる。よろよろと渡りきる。次に人家の庭を横切り、やっと辿り着く。

四時間の散策。大満足。素晴らしい時間だった。

遅い昼食をとり、プールで泳ぎ、一時間であっという間に寸劇を作る。

現地の人が朝夕沐浴をする川を舞台に私とジョシュ、ナムロンが囚人で森からやってきた精霊ディンドンに脱走させてもらうものの、その恩を忘れて殺害し、たたりにあうというもの。

六時発表。ライステラスから川へと走り降りてくるディンドン。川では現地の人が全裸で沐浴している。

終了後、くたびれきってビールを飲む。

七時、他の組の発表を見る。

夕食後、トノ、ジョシュ、ゴップ、トゥアらと話す。

トノはムスリムの結婚の手続きがいかに大変かを語り、書類にサインだけでいい日本の結婚制度に驚いていた。トゥアはタイのゲイ専用サウナについて語る。

その後、カエルの鳴き声を聞きつつ仕事、つまり執筆をする。

七月某日

最終日。

次に集まる10月に何をするかについてのディスカッション。

その最中、ドイツから私に電話がかかってくる。九月の『ハムレットクローン』のドイツ公演についての諸問題解決についての電話。ディスカッションを中座させてもらい、借りたコンピューターでやいのやいの。

それを終えてディスカッションに加わる。

五時過ぎ、すべて終了!!!

夜、みんなでリナのケチャを見に行く 。

集合のとき、ナムロンが白いシャツに白いパンツ、白いネックレスと決めていてそれが褐色の肌に実に似合っていてかっこいい。聞くと最後の日のためにこれまで着ないでいたのだという。

同じマレーシアンでインド系のジョーによれば、マレーシアンのなかでマレー系が一番coolなのだという。インド系と中国系はださいのだという。

次に現れたトゥアもまた黒が基調のいい柄のサルーンを腰に巻き、決めている。

負けてはならじと、私はウブドで買ったばかりのシャツと白パンツに着替える。

それを見てトゥアが「まあ、いいシャツだこと」と腕と乳首をつねつねしてくる。私は悶える。

ケチャの会場には車で10分ほど。先日道であったフレンチギャルがたまたま隣の席だ。

火を使ったりで迫力満点。リナが客席に乱入し、なぜか私を指名して踊りの合間の小芝居にかりだされる。草の束を持たされ、敵役をやっつけろというのだ。私はもうまったくの役者モードであるから大いにやる。客席は大笑い。ケチャに始まり、ケチャで終わったぼくのバリ!!!

帰ってみんなでお別れパーティ。地酒のアラックで大酔っ払い。なぜかどういう回路であるかは不明のまま京都の舞妓の真似をしている。フランスから『屏風』の演出家フレデリック・フェイスバックがやってきて今夜一泊私と同室。

このアジア企画、ゴールがどうなるかはわからないが、すべてが終了したあかつきには是非プロジェクトXでとりあげてほしいものだ。『世田谷パブリックシアターの冒険』というタイトルで。

主演はもちろん松井さん。田口トモロヲのあの例のナレーションで、

「松井は我を忘れてケチャを踊った。東京のことは一切考えず。その後、名案が浮かんだ」

「そのとき、松井は思った。カワムラはあてにならない」

七月某日

松井氏も昨晩は大酔いだったらしい。酔っ払い日本人ふたりを見つつ、「日本人はたくさん酒飲めていいなあ」とインドネシアンたちがため息をついていたという。

ウブドに出て、バリマッサージを満喫する。すっぽんぽん。口ひげの旦那がもんでくれるのだが、あまり気持ちがいいので勃起しないかと心配した。しなかったけど。町を歩き、お買い物をして、ミーゴレンと白ワインの昼食。

帰ると私たちが使っていた稽古場に新たなグループがなにやらテーブルを並べていて下の芝生でリナが少女達の踊りの振りをつけている。

それをしばし眺めて空港に向かう。午後10時の便なのでわたしが最後。

さらば、バリ。ありがとう、バリ。ダニにいっぱいくわれたのは辟易だけれど。

来年はぜひジャカルタに行ってノブやらトノに案内してもらい、バリに来て静養するというプランでいこうと固い決意。

■八月某日

No.736

と思っていたところ、ジャカルタでホテル爆破のニュース。

 

■八月某日

No.737

ジャカルタのノブくんによれば、今回爆破されたホテルは有名人や政治家が女遊びするときの御用達で、どうも政治家の被害者もいるらしいのだが、公表はされていない、もうすぐ国会が開かれるので、それで誰が空席であるかでわかるという町の噂が持ちきりだということだ。ホテルはノブくんの住居の近くでさすがにびびったらしい、八月十六日が国の独立記念日でここ二週間は緊迫の日々だという。

猛暑の稽古はさすがにつらい。

やはり夏は休むものなのだと実感する。

稽古場が地下であるせいか長時間の稽古だと酸素が欠乏気味になって眠くて仕方ない。

帰って『タモリ倶楽部』を見る。ホッピー特集だ!しかも好きななぎら健壱が出て、ホッピーについて怪しげな講釈をたれている。ホッピーがいつごろできたものかといった歴史から飲み方のうんちくまで、創始者の孫娘が出てきて講釈し、いい勉強になった。ちなみにホッピーのおいしい飲み方はホッピー、焼酎、ジョッキを冷やし、七対三で、ここが極意なのだが、ジョッキにホッピーを注ぐときは30センチほど上からということだ。この高さだといい具合にジョッキに泡がたつのである。

■八月某日

No.738

稽古後、テレビでプライドの試合を見る。とりたてて感想なし。

『ナンシー関大全』を買った。読む。ほんとうにおもしろい。

劇作家協会の新人賞30本が送られてくる。九月までに読まなければならない。さしずめ夏の宿題だ。

■八月某日

No.739

長い書き物を完成させる。

PCでメールを受信中、ものの見事に最新ウィルス、ブラスターワームにかかり接続するとすぐにシャットダウンの表示が出て、再起動する、その繰り返しなのだ。

■八月某日

No.740

ニューヨーク大停電。

ご破算の街、ニューヨーク。今回は冷蔵庫の中身がご破算なわけだ。入れといても腐るからね、と舗道にあふれた人にフォアグラを振舞っている人をニュースは報じる。

三茶でいろいろ打ち合わせ。

稽古。

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