彷徨とは精神の自由を表す。
だが、そんなものが可能かどうかはわからない。
ただの散歩であってもかまわない。
目的のない散歩。
癇癪館は遊静舘に改名する。
癇癪は無駄である。
やめた。静かに遊ぶ。
そういった男である。

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■九月某日

No.461

恵比寿に『クレマスター3』を見に行く。

それっぽいひとばかりがいる。まあ、俺もそれっぽいの一員なんだろうけど。隣の席の開映前美術手帖を広げていた美大生ふうが、どうも風呂に入っていないらしく三時間ものあいだ臭くて仕方がなかった。

帰り駅構内で行列を作っていた立ち食いのさぬきうどん屋に入る。確かにさぬきうどんだ。といってもさぬきうどんのプロじゃないからわからないけど。

遊静館近くのセブンイレブンが例年通りおでんを始めたのだが、今年は妙に気合が入っていて、お品書きとか凝ったの張ってるのはいいが、ふたつあるカウンターの両方の客がおでんを選び始めると、深夜の行列となる。おでん客ってのは「がんも、じゃなくてやっぱりこんにゃく」とかのんびりやっている。

しかも問題は最近入った初老の深夜シフトの店員で、歳は50代だろう、やたらと客とコミュニケーションをとるのがサービスだと錯覚しており、列ができているのに、「この芥子はよく効くからお気をつけて」だの「お箸はなん膳?」とか箸の数え方の正確な知識などをさりげなくひけらかし、待たされているほうは不愉快なことおびただしい。

深夜だよ、深夜。深夜のコンビニに交流などいらない、笑顔もいらない。むすっと早く、これが標語だ。スピードとリズム、テンポ。

店長あたりが言うべきことなのだが、多分リストラかなんかで一生懸命再起しようとしているおじさんなんだろうし、自分より歳の若い者に指図されたくはない、自分はサービスの本道を歩いてきた男なのだという自負がお箸の数え方あたりに垣間見えるし、なかなか扱いに難しいのだろう。

久しぶりにテレビで野坂昭如氏を見るが、少し前に比べて顔色がいいので驚く。大酒を控えられているのだろう。近著『文壇』を読む。
■九月某日

No.462

歯医者。人に話してもあまり信じてもらえないのだが、歯医者の診察台を倒されるといつも突如眠気に襲われ、実際に眠っていることがある。おのずと開けている口が閉じてくるわけで、お医者さんの「はい、眠らない、眠らない」の声にはっと起きる。煌々と照らされる治療用の明かりとあのウィーン音がどこか現実感を欠いた世界に私をいざなうのである。
■九月某日

No.463

ぐだぐだと過ごす。

マービン・ルロイ『悪い種子』を見る。幼少の折り、一度テレビでラストシーンだけを見ていたもの。そのシーンの記憶は正確だった。
■九月某日

No.464

午前中テレビ東京でやっている日経ニュースにたまに出てくる日経記者露口一郎が傑作だ。どこが傑作だというと、なんとなくやる気のなさげで、やるせなさそうな佇まいがいい。

以前芸能プロ株が下がったことについての解説で、「MAXのミーナの妊娠絡みで、まあどんなアイドルでもやることはやるという不安定材料から」とまじめな顔でいうので、大笑い。

明日から十月だ、一年が経つのは早いと凡庸な呟き。
■九月三十日

No.465

夜、カンタス機でシドニー乗換え、メルボルンヘ。

オーストラリア便は夜出発で時差もないので楽なのだが、夜の空港からの旅はなぜかどことなく淋しいのである。なんだか中森明菜の歌かなんか歌いたくなるのである。

今回首に巻く空気入れ枕を購入して機内で試してみたのだが、すこぶる調子がいい。サービスでくれる目隠しも初めてしてみたのだが、予想に反してこれも調子がいい。銃殺刑みたいのが嫌でこれまで一度も試したことがなかったのだが。

談志をCDで聞こうとしたが、エジジン音で聞き取りにくいので、この格好で寝る。
■十月一日

No.466

シドニー空港で三時間待ち。

メルボルンへは一時間半ほどのフライト。

午前十一時半頃に着く。ピーターが迎えに来てくれている。

メルボルンは春で素晴らしく過ごしやすい気候である。今回はメルボルン大学で『ハムレットクローン』のワークショップを行うために来た。

大学から徒歩ですぐのカールトン地区のホテルにチェックイン。

少し昼寝をして三時から五時まで大学でワークショップ。

終了後いったんホテルに戻り、次に18時半にピーターにピックアップされて日本領事館主催の夕食会に出るのに領事邸に。今年の三月にも招かれた場所である。

オーヴリー・メロー、ロビン・アーチャーらと食事。朦朧としたなかで必死に英語を組み立てる。しかし話題はほとんど演劇のことなので、苦にならない。本当に世界は狭くなった。みんなよく日本の情報を仕入れている。

22時過ぎ、ホテルに戻る。へろへろのよろよろである。

グレンフィデッシュをひっかけてどっと寝る。
■十月二日

No.467

十時半に起きるも、まったく何もやる気が起きない。

近くの日本食レストランでピーターとエーイチと食事。エーイチというのはメルボルン大で哲学を教え、こっちでかみさんもらってふたりの子供を育てているこてこての大阪弁のけったいなおっさんである。

「東京では痴漢電車が出来たいうてますなあ」と女性専用車両のことを自由に痴漢していい車両と誤解していたというおっさんである。

食事後エーイチに近辺のいい本屋と古本屋を教えてもらう。ありがたい。

春の陽気で実に気持ちがいい。

14時から17時までワークショップ。こっちで舞踏ダンサーとして活躍している元大駱駝鑑、ウミウマレユミさんも加わる。

ワークショップ後、教えてもらった古本屋でアンガーの『ハリウッドバビロン』1巻2巻を見つけ、買う。

さらに近くの酒屋でハバナ葉巻二本。

ピーターとパスタの夕食。おいしい。

その後、『ベケット・カーン』というベケットの『クラップ最後のテープ』とサラ・カーンの『クレイヴ』をひっつけたという芝居を元は教会だったという小劇場で見る。

観劇後、出演者であったトムとビールを飲む。トムは三月の私のワークショップに出ていた仲である。

ホテルに帰り、葉巻パルタガスをやり、ワインを飲む。
■十月三日

No.468

本屋に寄ってから日本食レストランで親子重を食べるが、まずい。ここはすぐ近くにライゴンストリートというイタリア人街があり、レストランもいっぱいあるので、この日本食屋ももっとがんばらなければいけないのに。

アデレードからラッセルが来て、ワークショップに加わる。

何をやっているのかというと様々な身体訓練と、身体術を交えての『ハムレットクローン』のリーディングである。

14時から17時。終了後、ラッセルと大学内のカフェでビール。学生用のカフェだがワインもそろっているんだぜい!

夜ピーターの車でリッチモンド地区まで行く。ベトナム人街である。ベトナム戦争で難民となった人々がここに集まってきたのだという。オーストラリアは現在砂漠にアフガニスタン人収容の難民キャンプも計画しており、反対する層がいたりと話題らしい。今の首相はふたりの口によればブッシュのいいなりで最低の政府ということだ。

ベトナムレストランでひき肉のレタス包み。チャイニーズブロッコリー。スナイー。豆腐といんげん、人参の炒め物。春巻き。持ち込み自由の赤ワイン。

美味であった。

談志を聞きながら、グレンフィデッシュをやり、眠る。
■十月四日

No.469

雨で寒い。

正午、大学内のレストランで学部長のアンジェラ・オブライエンとピーターと食事。

ここは教職員用のレストランのなかのさらに奥まったVIP用レストランで、まるでサービスは街中のものと変わらないが、まずい。オニオンスープを飲んだが、初めての奇妙な味であり、パスタも予想していたものとまるで違う。

それにしても周りの人々ばかばかワインなんぞを飲んでいる。シャンパンまで運ばれているのでじっと見ていると、アンジェラに「飲みたいのか」と聞かれ、思わずイエスといってしまい、シャンパンを飲む羽目に相成る。まあいいんだけど。

ワークショップの最終日、『ハムレットクローン』の通しをし、それをビデオに収める。

いい出来である。一時間半ほど。ラッセルなんかいろいろな役はやらされるし、痙攣もやらされるしでへろへろ。

終了後、学内のカフェでみんなとお茶。

ライゴンストリートの本屋でハート、ネグリの『EMPIRE』、カーンの『CRAVE』などを買う。

19時、同じライゴンの老舗レストラン「JIMMY WATSON」でジョン・ロメリル、ローズマリー、ピーター、ラッセルと夕食。オーストリアの友人が揃ったのである。

ジンジャエールのアルコール入り、ドライアンドドライから始め、赤ワイン、子羊の脳味噌、サラダ、最後はグラッパとエスプレッソでしめる。

パオクンの死、ジョンの父親も母親もメルボルン出身で父親はバンドマンをやっていたことなど。

私も自分の父親、典型的なサラリーマンの死について語るとジョンはじっと聞いていた。

このレストランはサービス、食事ともに素晴らしい。しかもこれでひとりあたま50ドルである。東京だったら1万円はとるだろうというと、ここは他と比べてメルボルンでも格段に安いのだという。

ジョン・ロメリル達と別れ、近くのバーでラッセルと飲む。ラッセル、アデレードよりここのほうが大人の女が多い、いまさらガキとも付き合えないと苦い話をする。
■十月五日

No.470

本来ならピーターがドラマトュルグをつとめるグループのメルボルンフェス参加の作品のリハーサルを見学することになっていたのだが、リハがキャンセルになったので、ピーターの車でヤラのワイナリーにドライヴ。もちろんラッセルも同乗。

ワインテイスティング。ワインとパンの昼食。広大な緑の大地を眺めながら、それぞれの事情を持つ40男三人ががっついてパン、ソーセージに齧り付く。年をとるってことはいいことだよなあと最近つくづく思う。

ヤラの原始林を散策する。

車に戻って発車というときにピーターがきょう声を発してばたばたするので、見ると足にヒルが上っていたのであった。ふだんはのっそりとした動きのピーターの敏捷な身振りにびっくり。

18時空港着。お別れ。わにの肉を買う。うまいかどうかは知れないが。

シドニー行きに乗り込むもなかなか離陸せず、30分ほど経ってエンジン故障が告げられ、別の飛行機に乗り換え。このごたごたでシドニーの到着時間は遅れ、待ち時間まるでなく、東京行きの飛行機はすでに離陸準備を完了させている。

機内で韓国人のおばちゃんたちに囲まれる。東京に行くのか、このまま乗り継いで帰るのかと英語で聞くが、まるで通じず、ひきつった顔で「サウス・コリア」とだけ答えるあたり、北朝鮮の日本人拉致問題の影響だろうか。

とにかくおばちゃんたち、うるさいわ。人の耳元でお互い会話しないでくれよ。びっくりするよ。
■十月六日

No.471

朝、成田着。メルボルンより暑い。

時差がないのでありがたい。

いきなりリニューアルされた当ホームページの出来をチェックさせられる。

なかなかの出来である。是非多くの人に見て欲しい。

ガーディアンガーデンのイラスト入り審査風景記録がケッサクだと聞く。

ただし私の似顔絵は似ていなくて、いのうえひでのりみたいだという。

ショック!いのうえひでのりかよ、かつて初めて太ったいのうえ氏を見たとき、往年の姿を知っていた私はいのうえ氏がいのうえ氏のきぐるみをまとっているものばかりと信じていた。

でもデブはいいよ、デブは。とフォローってなんのフォローにもなってないか。

昼寝はやめて夕方『笑点』を見、『あるある大辞典』の脳ドック特集を見る。脳ドックはこのあいだ受けたもんねと得意げなボク。

ぐっすり眠る。
■十月七日

No.472

渋谷文化村へ多和田葉子さんのドュマゴ賞受賞パーティーへ。

うれしいことに純ちゃんがいた。戸川純ちゃんじゃなくて新井純ちゃんじゃなくて、小沼の純ちゃんね。いろいろしゃべる。

多和田さんに挨拶。

中沢けい氏とひさしぶりに会う。ますますの貫禄だわ。初対面の町田康氏に挨拶。びっくりした顔つきでこちらの手を握ってきた。この人俺好きだ。

遊静館ですき焼きを食べる。
■十月某日

No.473

京都造形芸術大学で初講義。三年生とともに舞台を作る。

ラングの『メトロポリス』の舞台化に決定。けっして簡単な作業ではないが、ゴールが予想できることをやってもおもしろくない。

会議もあるでよ。
■十月某日

No.474

引き続き京都。

午前中、一年生。午後は三年生。

教員室の隣の席は松田正隆氏で授業から帰ってきて大きなため息をつくのが聞こえてくる。お互い同僚となったわけだ。

「川村さん、祇園にええこおるからいきまっせ」

「よっしゃあ、瀬戸内寂聴を呼んでおごってもらおう」

という会話は嘘。

秋晴れの最高な気候。乾いた空気はパリのよう。

構内を駆け回る。大学は山の斜面に建てられているので坂ばかりで足腰が鍛えられる。

会議もあるでよ。

夜の新幹線で帰京。くたびれる。
■十月某日

No.475

歯医者で脂取り。葉巻を吸うせいか、すごい脂らしく、鏡で見せてもらったが、歯の裏側がすげえや。

『サイン』見る。この監督はさして珍しくもないストーリーを独特のテンポと流れで見せてしまう。『シックスセンス』のオチはかつて私も『新・爆弾横丁の人々』で描いたものだった。盗作と訴えようと思ったが、私は心が広いのでやめた。

今回の新作は見た人がラスト近くのオチでけっこうずっこけるといっていたので、どんなオチなんだろう、実は全部ドッキリカメラでしたということでメル・ギブソンが怒りまくるとか、実は宇宙人は着ぐるみで中から死んだと思っていた奥さんが現れてハッピーエンドとか、わくわくしていたのが、なんだ、けっこうあっさりでした。

随所で笑ったし、感動したわ、俺。みんなで好きなものを料理して最後の晩餐しようとしたところが、食欲が出なくてお父さんが癇癪起こして、みんなでわっと泣いちゃうところなんか、いいよ。

こうなったら見たときはあまりの馬鹿馬鹿しさに屁も出なかった『アンブレイカブル』も認めちゃうよ。なんかこの時間の流れが好きだな。

それにしても、テレビで初めて宇宙人の姿が公開とかいって、ギブソンの弟なんざ、おーっと見ているこっちがびっくりするほどびっくりしてるけれど、あんな緑のスパイダーマンみたいの仕込みじゃねえかとか疑わないのかね。それとも設定が田舎だから、みんな映画見てないのかな。

とにかく、知人がいってた馬鹿馬鹿しいオチってのは『マーズアタック』と同じじゃねえかといいたかったことがわかった。宇宙人ってひ弱なのね。

テレビで『ER』の後釜、『ホワイトハウス』見るが、まだわからねえな。どうせアメリカ万歳番組じゃねえのか。
■十月某日

No.476

田端の祖母の家へ米寿のお祝いにいく。

『源氏』のうな重をおいしくいただく。近くの蕎麦屋『砂場』が閉店と聞いて大ショック。
■十月某日

No.477

素晴らしい秋晴れ。この季節が一番好き。

扇風機を片付け、風呂掃除をする。

それだけの一日。当分こういう生活を送っていたい。なんか働きたくない。人間失格といわれる生活を送ってみたいものだ。そいで日曜日の午後2時からやるフジテレビのドキュメンタリーの登場人物になりたい。このドキュメンタリーいっつも渋いぜ!

この前は20代のホームレスのことやっていた。
■十月某日

No.478

忙しいときにやたらと発想が湧いてくる。

執筆。

夕刻、ラドン温泉。マッサージを受ける。
■十月某日

No.479

執筆のつもりが、拉致被害者が帰ってくる特番を見なければ。
■十月某日

No.480

夜、京都に着く。帰国した拉致被害者の会見を見たいため、そのままホテルに篭城。さまざまな局のニュースを見まくる。

No.481〜500 バックナンバー

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