41歳の私は未だふらふらとしている。
落ち着きがなく、瞬間湯沸かし器の気味もある。
だからこの日記を彷徨亭日乗と呼び、東村山の
住まいを癇癪館と名付ける。
こういった人間である。

No.141〜160 バックナンバー 最新

■九月某日

No.121

 秋晴れ。人形の作業日のせいで稽古はオフ。パンフレットに載せる原稿を書く。癇癪館近くの本屋で江藤淳コレクション、サム・ペキンパーなどを買う。
バッティングセンターで90球。
とりたてて面白いことなし。
■九月某日

No.122

 どんどん稽古。稽古場に舞台美術の池田氏、照明の高良氏来る。粛々と打ち合わせが進む。
夕食は牛丼。みんなで狂牛病になろうという不朽の自由作戦。
■九月某日

No.123

 まだまだ稽古。夕食は他人丼。
稽古は粛々とシビアに進んでいる。劇団公演のすったもんだとは対照的だ。
■九月某日

No.124

 当日乗を読んでいる人から、「料理が得意なのですね」と言われたので、何事かと思ったら『くぐつ草紙』の稽古開始から書き込んでいる夕食の献立のことだった。
違う、違う、これは結城座で出される炊き出しのこと。稽古場の上にある台所でみんなでいただくわけ。貧乏人の黒服は大喜びだし、七号の食べるのが早いこと早いこと、集中して一気に食っちゃう。いつも人より倍の早さで平らげ、空の皿を前にしてつまらなそうにしている。誰のことか知りたければ、結城座の公演を見に来ること。
そういうわけで稽古をしていると二階の調理場から晩ごはんの匂いがしてきて、毎日今日の献立は何だろうと楽しみなわけですよ。食事当番は劇団員の持ち回りで、入団したての頃は揚げ物しか出来なかったという植松君(男)も今はレパートリー豊富ないっぱしの料理人となっているわけです。結婚相手にいいぞ。
今日の食当は人形遣いとして強烈なキャラクターを持つ畑崎氏入魂の浅蜊ご飯、牛筋の煮込み、みそ汁。
■九月某日

No.125

 どんどん稽古。夕食は結城一糸氏入魂の作のカレーライス。昨日から作っていたというこのカレーライスの美味さといったら!
夕食後にも稽古は再開されるのだが、正直言って眠くなって仕方がない。
■九月某日

No.126

 どしどし稽古。夕食は秋刀魚。
稽古後、二日前に幕を開けていた唐座が公演休止の報が入り、スワ、何事かとざわめき、知恵さんが自宅に電話をすると、準主役に抜擢した新人が腸捻転で倒れたということだった。代役を立てて再開するという。どこも新人は色々厄介をやってくれるものなのだと感慨に更けり、秋の夜長、武蔵小金井駅前の居酒屋で冷酒を嗜む。
■十月某日

No.127

 雨。稽古は休み。ぼんやりしたまま日が暮れる。色々やることがあるのだが、何もできないまま。
雨で十五夜の月は見えず。
■十月某日

No.128

 昼間、癇癪館でなにやらあたふたと動いているうちに日が暮れる。
夜、新宿『きっきりき』で文学座の藤原新平氏と『牛蛙』の打ち合わせ。『風花』に行く。例によって初めて会う人々とわあわあしゃべって帰る。
夜空には十六夜のお月様。真ん丸。『夜空ノムコウ』を歌いつつ歌舞伎町を抜ける。そのせいかキャバクラの呼び込み達声を掛けず。
■十月某日

No.129

 早稲田の講義準備。その他読書。高田馬場、『ムロ』で餃子を食べ、なんやかやと本を購入する。そのうちの二冊読了。
パゾリーニ、チャップリン、ゴタールの三人にはやはり目が離せない。たとえ故人だとしても。
■十月某日

No.130

 後期最初の講義。ニューヨーク演劇についてで、やはりいきなり話題はテロになる。
TAルームでビデオのダビングに四苦八苦する。
■十月某日

No.131

 正午、四谷三丁目のビルの一室で『牛蛙』本読みの初日に付き合う。
夕刻、結城座。
稽古後、モツ焼き屋で一杯やる。武蔵小金井の『百薬の長』という下町酒場風の古い居酒屋。風情よろし。
■十月某日

No.132

 結城座、稽古。
夕食は麻婆丼、春雨サラダ、卵スープ。デザートにフルーツサラダ、チーズケーキ。たっぷり食ってゆったり眠くなる。
■十月七日

No.133

 ほりゆりの結婚式。披露宴、代官山のレストランに赴く。『TABLEAUX』、なかなか料理よろし。食べ物は美味かったし、主賓の私のスピーチも心がこもっており、無意味に格式ばっていない、良い披露宴でした。
新婚旅行はイタリア、モロッコだという。モロッコで旦那手術してほりゆりが「チンポがないのね」と台詞を吐くのだろう。
一方ソウルに行ったばかりの清田からメールが届く。(三カ月留学。目的は皆目不明)下宿に近い小劇場で囚人がうんこを食べる芝居を見たという。
■十月八日

No.134

 米、攻撃開始のニュース。小雨。
体育の日だが、体育せず。稽古は続くよどこまでも。
夕食は中華丼。
秋ね。
■十月某日

No.135

 稽古。読売の取材。稽古後、モツ焼き屋。だらだらとしみじみした酒を飲む。だらだらの歴史も深いが、しみじみの物語もなかなか捨て難い。
■十月某日

No.136

 まだまだ稽古。十二代目孫三郎さんの話。昔地方の小屋に行くと、楽屋に「牛とキツネの泣き別れ」と落書きがしてあるという。「もうこん」という意味だそうで、小屋側への嫌がらせだという。
夕食はハヤシライス。
■十月某日

No.137

 人形の作業日で稽古は無し。
早稲田の講義。リビングシアター『パラダイス・ナウ』のことなど。
夏季ワークショップの一文のメンバーと飲む。みんなけっこうこの日乗を読んでいて、焼き鳥とサウナが出てくる回数が多いと指摘される。クラスに私と顔がそっくりの江口君という人がいるらしい、しかも私と同じ希望ケ丘高校出身と聞いてのけぞる。遂に私のクローンが誕生されたのだ。面会のセッティングが考慮される。
来年の客員は鴻上に決まったらしい。学生達、鴻上がえなりかずきにそっくりだと騒ぐので、デビュー当時は漫才師の春日三球に似ていると言われていたのだと説明するが、誰ひとり春日三球を知らず。隔世の感を覚え、大根サラダを食らう。
■十月某日

No.138

 稽古。照明、音響、きっかけ打ち合わせ。夜になると眠くなる。当たり前か。
■十月某日

No.139

 稽古。十二代目が子供の頃見たという映画『バリカン親父』と『マラソン侍』について語る。森繁とか藤山寛美が出ているもので奇妙キテレツな喜劇だという。見たい。誰か情報を持っていたら教えて。
話を傍らで聞いていた舞台監督の黒沢が自分の田舎の近所では「侍マラソン」というマラソン大会があると語る。みんな時代劇の格好をして走るのだという。
稽古後、稽古場に近い新小金井街道の旭川ラーメンでチャーシュー、味噌ラーメンを食べる。毎日行列の店でずっと気になっていたのをやっと食べたわけだ。
『牛蛙』及び如月小春の原稿の校正、ゲラチェック。
ぐったり疲れる。
■十月十四日

No.140

 今日で全稽古、終了。それにしてもスムーズに進んだ稽古だった。
稽古後、国分寺のラドンサウナでぐだぐだする。ぐだぐだもまた奥が深い。
浴衣を着て大広間で生ビールをだらだらと飲む。親父たちが歌うカラオケの演歌はすべて初めて耳にするもの。ヒット曲でもないこうした演歌をこの親父たちはどこで仕入れてくるのだろう、『麗子』とか曾根崎なんとかとか。そこいらのスナックでママと歌ってるのか。
♪おしえてー、おじいさん、おしーえてー、おーじいさん。
私があゆの曲を歌うと一気にシラケる国分寺の大広間。

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