THE LOST BABYLON in ADELAIDE
アデレード滞在記:遠藤 香織

その2

何と、最初「THE LOST BABYLON」は、未成年者に対してR指定がかけられたらしい。「若者が見るべき芝居だ」とラッセルは事務局と戦ったらしい。私自身も若い人に見て、感じて欲しいと思っていたので驚いた。結果、学生たちが観客だった日、舞台に伝わってくる客席からの熱気は一番熱かった。その反応に違和感を感じる箇所もあったにしろ、見終わった彼らの表情をみて安心した。

私達は準備が整ったところに、日本からポーンと参加しただけ。なぜ日本から来る必要があるの……、なんで、あの日本人なの……、なんて言われるわけにはいかない。決してプレッシャーになっていたわけではないけど、アンケートや新聞評、共演者達からの評価に正直ホッとした。

評論家が選ぶ10作品の選ばれた

芝居にはきちんと向き合いました。ラッセルから体のキレがいいとか、動きがファンタスティックだと、特にアタッカーに関して他の役者さんと比較をされる。私達からすれば何も特別なことをしているわけではない。彼らの動きが緩慢に見えて仕方がない。もちろん私達が持っていない彼らの表現もたくさんある。若い男女のクレイジーな感じなんて、日本人が出すには難しい。彼らは自然にやってのける。もっと英語が出来れば、もっと……。何度思ったことか。そしたらもっと、お互いの、環境や人種の違いからくる感性がぶつかって融合できたのに、きっと。時間が短いなあ。

そう、私達の課題は肉体の動きより言語だ。

稽古初日。これから哀藤さんは、男役のロブとの苦戦がはじまる。英語の発音に最後まで悩まされた。

このロブというアメリカ人俳優は、イギリスで10年、シェイクスピア芝居を経験したらしく、とにかく台詞が早い。早口言葉の練習かと思うくらい。女役のシェリルもつられてどんどん早くなっていく。だんだん感覚が麻痺してきて、これが普通の速さなのかと思えてくる。ただ、英語が不得手な私の耳には、彼の台詞は伝わってるなという気がするのだけど、彼女の言葉がすべっているように感じてならない。これがさらに哀藤さんを悩ませる。台詞を大きく中飛ばしされると、堪能にしゃべれないから、修正できない。一緒にそこに飛ぶしかない。

ロブに助けられた場面も多かったらしい。同年代の男のプチ友情が喫煙所にて育まれているようだった。日本と彼らの習慣や感覚、芝居そのものに対しての違いが、日本男児たる哀藤さんには、ものすごくストレスになっていたようで、1人でビールを飲む夜も……、私も感じることはあったけど、どこか、それも楽しんでしまいたいという好奇心のほうが大きい脳天気ガールだったので、不思議とストレスがなかった。とは言え、ラッセルとは何度も口論になりそうになった。つたない英語で必死に自分の思いを伝えて、ラッセルの考えも理解するように何度も話しあった。おかげで、お互いに抱え込むこともなく、共同生活を含め居心地よく過ごせました。哀藤さんとラッセルは年齢の近い男同士、難しいところもあったようで……。

さて、私の稽古初日は「女」役とのシーン。私の役は「女」の幻影であり、「女」にとって私は妹である、という役どころ。なんとバックスクリーンに顔がドアップ! 椅子に座って向きを何度もかえるのに、事務椅子なの。しかもコロコロタイヤがついているのに、ストッパーがないの。無謀だよぉ。言ってみたけど改善されることはなさそう……、「何とかENDOの肉体でずれないようにして。よろしく。」ということらしい。はあーい、がんばります、って、ねえ。

私のアップを撮り続けてくれたダニエル。最後に「ENDOと仕事できて幸せだった。」っていってくれたことが誰に言われた言葉よりうれしかった。私のほうが感謝しているよぉ。私の顔を毎日毎日ありがとう。舞台裏でいつもスタンバイするとき、「GOOD LUCK!」って合図を交わすことが自然の儀式だった。なんか、懐かしいな。

ショーンという少年役の男の子。初めてあったときの人懐こい笑顔。最後までその笑顔は変わらなかったことがうれしかった。稽古の最初は不安だった。遠慮していて、動き方が分からない感じが、大丈夫かなあって。そしたら、初舞台だったみたい。どんどん急速な進化をとげ、目に見えて成長していく。一緒に作っていくことが楽しかった。

私をライフルで後ろから殴るという場面があって、毎日「大丈夫? あたってない?」って聞いてくれる。ものすごーく気を使ってくれていたのに、楽日の前日、見事にヒット! 一瞬、気が遠くなった。大きなタンコブが私の頭に誕生した瞬間だった。でも、毎日そんなに気を使う彼だから、気づかれてはいけないと平気な顔をしてたけど、本当はかなり痛かったのぉ。まあ、アザだらけになることはいつものことなのだけど。

その後のアタッカー役で、撃たれて倒れるときの頭のシェイクでほんとにダウン。倒れている間クラクラしながら最後を迎えたのでした。それとともに、毎日スタンバイ中繰り広げた、ポーズ対決はわすれないよぉ。本当に楽屋や舞台裏が騒がしい、ビックリする人達だった。

女楽屋はいつも歌声が絶えない明るい雰囲気!! ウクレレまで登場した日はちょっとカルチャーショック。あのぉ、本番中ですけど……、いつも陽気なのは素敵だけど、そこまでいくと驚きです。いまでも「ENDO ENDO〜」という歌声が聞こえてくるよ。

歌をよく歌っていた若女役のウエンディ。

陽気なパワフルウーマン、クリッシー。みんなを引っ張るムードメーカー。いつも周囲に気を配っていて優しいお母さんみたいな人。中年女役は上手い。男とバトルを繰り広げる緊張感と巧みさは感動だった。アタッカーだって全力で体当たり。今回一番尊敬し、慕う女優さんです。

そしてロリー。ちょっとがさつでキュートな女の子。ウクレレ少女。とってもマイペースで男らしい笑顔が好きでした。

まあ、賑やかでした。ここだけの話。なんと、本番中に水鉄砲で一緒に遊ぶことになってしまった仲間はもちろんウエンディとロリー。落下する小さなゴム人形に当てるというゲーム。ここまでくると観念して仲間入りを果たしました。こんな経験もいっか。

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