THE LOST BABYLON in ADELAIDE
アデレード滞在記:遠藤 香織

その3

ロビーの様子。何もかもスタッフの手作り。みんな本当に、この作品とチームを愛していて、一生懸命。日本では失敗が許されないようなミスをしても、ここでは「Good job! Nice!」なのだ。日本人気質の我々には感覚的に気持ち悪い。いい様にも思えるが、常にクオリティを上げたくてもがいている日本人には、その言葉にイラッとする瞬間もある。こればかりは文化の違いというか国民性の違いなのだ。仕方がない。どんどん孤独を愛する哀藤さんをラッセルは理解できないでいる。人が大好きでいつも誰かといることを好む彼らにはわからないのかも知れない。だから、哀藤さんの、武士道みたいな日本人特有の雰囲気に魅かれているのなら、そっとしておいてあげてね。何度もその間をいったりきたりしている自分が不思議な感覚だった。どっちもおかしいし、どっちも正しいし。私はその間で日本人について何だか考えることになり、英語という異文化の言語で伝えるという一人文化交流を、脳細胞フル稼働で行っていた。

今回は、私自身も、日本人であることをとても求められていた。能や日舞の歩き方を要求されたりもした。また、私の登場シーンの音楽は琴や尺八で演奏されたものだ。一番もめたのがメイク。最初は、白塗りの歌舞伎や能のようなメイクをしてくれといわれた。ものすごい違和感を感じた。だったらアップの映像が必要なのか……。

生意気なようだけど、この演出にちっとも合わないんじゃないか。どうしたら……、悩んだ。いっそのこと着物か……、何回か話しをして気持ちを伝えた。もう少し自然に、日舞の女性メイクくらいではどうか、とか。しばらくして、カナダで制作された日本のオタク文化についてのドキュメンタリーを見せられ、フィギュアの女の子のようなメイクしてくれと。衣装も制服っぽいもので。

確かに今回の演出ではバーチャルの世界が多用されている。私の役もその世界の住人だ。ただ、今、スクリーンに映っている、皆の評価してくれている少女らしさはなくなってしまう。芝居自体も考え直すかな……、でも、驚くほど芝居自体の稽古が少なく、アタッカーの動きばかりの稽古になっているなかでは、試す時間がない。

ラストチャンスかと思われる通しで、「メイクをしてみるから見てくれ」といっておいたのに、その日は、スクリーンが入らない日だった。で、ナチュラルとフィギュアの中間くらいでやることにして本番に臨んだら、他の役者のメイクが濃くてビックリした。オーストラリア人がフランス人になった……、とかわけの分からないことを思って唖然としていた。

そのころ男楽屋では哀藤さんがもっと驚いていた。男性人もメイクアップが始まっていたらしい。内心、笑いそうだからやめてくれ〜と飛び出したらしい。哀藤さんは軍人らしく見えるようにと、夏の日差しを利用して焼いたそうだ。そういえば、こっちきてどんどん黒くなったよなぁ。

稽古の帰りに、本番の後に立ち寄ったフリンジパーク。ここで、お互いの情報交換や交流を行った。アタッカーの衣装を着て望んだパレード。心優しい共演者やスタッフ。もう一度この「THE LOST BABYLON」で再会できた、デイブとフィル。二人の変わりように驚いたけど、何となく仲間意識が他のメンバー以上に強かったかな。そして何より再会できた喜びに満ち溢れていた。いろんな出会いと出来事があっという間に過ぎていった気がする。気がついたら帰りの飛行機に乗っていたような……、まだまだ、書きつくせないことがたくさん!

おかしなことに、日本にプチカルチャーショックを受けることになってしまった。渋谷のスクランブル交差点に立って、軽いめまいが……、そういえば、

In Japan, ……In Tokyo, ……busy,noisy

何度も何度も使ったフレーズだ。きっと今、東京で私は「アデレードはね……、」って何度も口にしているのだろう。また、いつかみんなに会えると信じて今回の「THE LOST BABYLON」の幕を降ろしましょう。

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